図で読む代数幾何 第3回

点のまわりの関数:層・茎・芽

空間の上の関数を開集合ごとに考える前層と層を定義し、点のいくらでも小さい近傍で決まる茎と芽を図で確かめます。Spec の構造層を作って茎が局所化 A_P になることを示し、Spec Z、Spec k[x]/(x^2)、Spec Z/12 で、芽が値より多くを覚えていることを見ます。

  • 代数幾何
  • 層
  • 茎と芽
  • スキーム

この記事の要点

関数の置き場所
空間の上の関数は、全体で定義されているとは限りません。開集合ごとに関数の集まりを決め、制限でつないだものが前層です。局所的に確かめたことから全体の結論が出せる前層を、層と呼びます。
茎と芽
点のある近傍で一致する関数を同じものとみなすと、その点での芽ができます。芽の全体が茎です。芽は、点での値よりも多くのことを覚えています。
Spec の構造層
Spec⁡A\operatorname{Spec}A の開集合ごとに「局所的に分数で書ける関数」を集めたものが構造層です。点 PP での茎は局所化 APA_P、開集合 D(f)D(f) の上の関数は AfA_f になります。
前回の宿題
Spec⁡k\operatorname{Spec}k と Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) は位相空間としては同じ1点ですが、構造層が違います。k[x]/(x2)k[x]/(x^2) の元 xx は、ただ1つの点での値が0なのに、0ではありません。
  • 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
  • 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
  • もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どちらも開かずに読み進められます。
  • 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。

前回の宿題

第2回では、環 AA の素イデアル全体 Spec⁡A\operatorname{Spec}A を位相空間として調べました。その最後に、次の問題が残りました。

  • Spec⁡k\operatorname{Spec}k と Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) は、どちらも1点からなる空間で、位相空間としては区別できません。しかし環 kk と k[x]/(x2)k[x]/(x^2) は違います。後者には、0でないのに2乗すると0になる元 xx があります。

違いは、空間の点ではなく「空間の上の関数」にあります。そこで、空間に関数の情報を載せる仕組みが必要になります。

ただし、関数はいつも空間全体で定義されているわけではありません。例えば Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x] の上で 1/x1/x を考えると、点 (x)(x) では分母が0になります。1/x1/x は、点 (x)(x) を除いた開集合の上でだけ定義された関数です。

このように、関数は開集合ごとに考える必要があります。開集合ごとに関数の集まりを決める仕組みが、この記事で定義する前層と層です。

この記事の流れは次のとおりです。まず、なじみのある実数直線の連続関数を例にして、前層・層・茎・芽を定義します。

次に、Spec⁡A\operatorname{Spec}A の上に「局所的に分数で書ける関数」の層(構造層)を作り、その茎が局所化 APA_P になることを確かめます。最後に、Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}、Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)、Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} で、茎と芽を具体的に見ます。

前層:開集合ごとの関数と制限

環はすべて単位元をもつ可換環とします。

定義1 前層 [1, §II.1 定義, p.84]

XX を位相空間とする。XX 上の環の前層 F\mathcal{F} とは、次のデータのことをいう。

(a) XX の各開集合 UU に対して、環 F(U)\mathcal{F}(U)。
(b) 開集合の包含 V⊆UV\subseteq U ごとに、環準同型 ρUV ⁣:F(U)→F(V)\rho_{UV}\colon\mathcal{F}(U)\to\mathcal{F}(V)。

ただし、次の条件をみたすものとする。

(0) F(∅)=0\mathcal{F}(\varnothing)=0(元が0だけの環)。
(1) ρUU\rho_{UU} は恒等写像。
(2) 開集合 W⊆V⊆UW\subseteq V\subseteq U について ρUW=ρVW∘ρUV\rho_{UW}=\rho_{VW}\circ\rho_{UV}。

F(U)\mathcal{F}(U) の元を UU 上の切断と呼び、ρUV\rho_{UV} を制限写像と呼ぶ。s∈F(U)s\in\mathcal{F}(U) に対して、ρUV(s)\rho_{UV}(s) を s∣Vs|_V とも書く。

ハーツホーンはアーベル群の前層で定義し、環の前層も同じように定義できると述べています。この記事に出てくる前層は、すべて環の前層です。

「切断」という名前は今は気にせず、「UU の上で定義された関数」と読んでください。

制限写像は、関数の定義域を狭めることに当たります。条件 (1) と (2) は「狭めなければ変わらない」「2回に分けて狭めても、一度に狭めても同じ」という当たり前のことを言っています。

条件 (2) は、次の図式が可換であること、つまりどちらの道を通っても同じ写像になることを言っています。下の辺の等号は恒等写像です。

F(U)→ρUVF(V)ρUW↓↓ρVWF(W)=F(W)\begin{CD} \mathcal{F}(U) @>{\rho_{UV}}>> \mathcal{F}(V) \\ @V{\rho_{UW}}VV @VV{\rho_{VW}}V \\ \mathcal{F}(W) @= \mathcal{F}(W) \end{CD}

元で書けば、s∈F(U)s\in\mathcal{F}(U) について (s∣V)∣W=s∣W(s|_V)|_W=s|_W です。

例2 連続関数の前層 [1, 例1.0.2, p.85]

X=RX=\mathbb{R}(普通の位相)とする。開集合 UU に対して C(U)C(U) を UU 上の実数値連続関数全体の環とし、V⊆UV\subseteq U に対して ρUV\rho_{UV} を関数の定義域を VV に狭める写像とする。CC は R\mathbb{R} 上の環の前層である。同じように、UU 上の有界な連続関数全体を B(U)B(U) とすると、BB も前層である。

C(∅)C(\varnothing) は、空集合の上の関数(何も値を決めない関数)ただ1つからなるので、条件 (0) をみたします。

包含と制限写像の向きが逆であることに注意してください。開集合は V⊆UV\subseteq U と小さくなるのに、切断は F(U)→F(V)\mathcal{F}(U)\to\mathcal{F}(V) と大きい側から小さい側へ送られます。大きい開集合で定義された関数は小さい開集合でも定義されていますが、逆は言えないからです。

第1回・第2回でも、イデアルと図形の包含は逆向きでした。

制限写像は、単射とも全射とも限りません。具体的に見ます。

例3 制限写像は単射でも全射でもない

例2の CC で、U=RU=\mathbb{R}、V=(0,1)V=(0,1) とする。制限写像 ρUV ⁣:C(R)→C((0,1))\rho_{UV}\colon C(\mathbb{R})\to C((0,1)) は単射でも全射でもない。

証明
  1. 単射でないことを示す。f(x)=xf(x)=x と g(x)=∣x∣g(x)=|x| は R\mathbb{R} 上の違う関数だが、0<x<10<x<1 では ∣x∣=x|x|=x なので f∣V=g∣Vf|_V=g|_V。
  2. 全射でないことを示す。VV 上の関数 h(x)=1/xh(x)=1/x は、どの F∈C(R)F\in C(\mathbb{R}) の制限にもならない。

    F∣V=hF|_V=h となる F∈C(R)F\in C(\mathbb{R}) があったとする。FF は閉区間 [0,1][0,1] の上で連続なので、そこで有界である。

    しかし x→+0x\to+0 のとき F(x)=1/x→∞F(x)=1/x\to\infty なので、FF は (0,1)(0,1) の上で有界でない。これは矛盾である。

単射でないのは、狭めると VV の外の情報を忘れるからです。全射でないのは、狭い範囲の関数が広い範囲まで延びるとは限らないからです。1/x1/x は、Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x] の上の 1/x1/x と同じく、00 まで延ばせません。

専門的な話圏と関手の言葉で言い直す

圏とは、対象の集まりと、2つの対象の間の射の集まりからなり、射の合成と恒等射が決まっていて、合成が結合法則をみたすもののことです。反変関手とは、ある圏の対象を別の圏の対象に、射 V→UV\to U を逆向きの射 F(U)→F(V)F(U)\to F(V) に送り、恒等射と合成を保つ対応です。

XX の開集合を対象とし、V⊆UV\subseteq U のときだけ射 V→UV\to U がただ1つある圏を考えます。前層の条件 (1)(2) は、前層がこの圏から環の圏への反変関手であることと同じです[1, p.84]。

連載で圏の言葉が本当に必要になるのは先の回なので、ここでは言い換えの紹介にとどめます。

層:局所で決まるものは全体でも決まる

連続性は「各点の近くを見れば判定できる」性質です。こうした性質で決まる関数の集まりでは、狭い範囲で確かめたことを合わせて、全体についての結論が出せます。この性質を条件にしたものが層です。

定義4 層 [1, §II.1 定義, p.85]

位相空間 XX 上の前層 F\mathcal{F} が層であるとは、任意の開集合 UU と、UU の任意の開被覆 {Vi}\{V_i\} について、次の2つが成り立つことをいう。

(3) s∈F(U)s\in\mathcal{F}(U) が、すべての ii について s∣Vi=0s|_{V_i}=0 をみたすなら、s=0s=0。
(4) si∈F(Vi)s_i\in\mathcal{F}(V_i) が、すべての i,ji,j について si∣Vi∩Vj=sj∣Vi∩Vjs_i|_{V_i\cap V_j}=s_j|_{V_i\cap V_j} をみたすなら、すべての ii について s∣Vi=sis|_{V_i}=s_i となる s∈F(U)s\in\mathcal{F}(U) がある。

番号の (3)(4) は、前層の条件 (0)〜(2) の続きです(ハーツホーンの番号に合わせています)。

(3) は「局所的に0なら0」、(4) は「重なりで食い違わない局所的な切断は、1つに貼り合う」と読めます。

(4) の ss は、(3) からただ1つに決まります。s,s′s,s' がどちらも条件をみたせば、差 s−s′s-s' はすべての ViV_i の上で0になるからです。

条件 (3)(4) は、次の写像の列でまとめて書けます。

F(U)→ α ∏iF(Vi) ⇉β2β1 ∏i,jF(Vi∩Vj)\mathcal{F}(U)\xrightarrow{\ \alpha\ }\prod_i\mathcal{F}(V_i)\ \overset{\beta_1}{\underset{\beta_2}{\rightrightarrows}}\ \prod_{i,j}\mathcal{F}(V_i\cap V_j)

α\alpha は各 ViV_i への制限を並べる写像です。β1\beta_1 と β2\beta_2 は、(i,j)(i,j) 成分に、それぞれ ii 番目と jj 番目の切断を重なり Vi∩VjV_i\cap V_j へ制限したものを置く写像です。

α(s)=(s∣Vi)iβ1((si)i)=(si∣Vi∩Vj)i,j,β2((si)i)=(sj∣Vi∩Vj)i,j\begin{gathered} \alpha(s)=\bigl(s|_{V_i}\bigr)_i\\[2pt] \beta_1\bigl((s_i)_i\bigr)=\bigl(s_i|_{V_i\cap V_j}\bigr)_{i,j},\qquad \beta_2\bigl((s_i)_i\bigr)=\bigl(s_j|_{V_i\cap V_j}\bigr)_{i,j} \end{gathered}

前層の条件 (2) から β1∘α=β2∘α\beta_1\circ\alpha=\beta_2\circ\alpha です。どちらの (i,j)(i,j) 成分も、ss を Vi∩VjV_i\cap V_j に制限したもの s∣Vi∩Vjs|_{V_i\cap V_j} だからです。

(3) は「α\alpha が単射」と同じです。α\alpha は環準同型で、(3) はその核が0だと言っているからです。

(4) は「β1(t)=β2(t)\beta_1(t)=\beta_2(t) となる tt は、どれも α\alpha の像に入る」と同じです。合わせると、層とは、α\alpha が集合 { t∣β1(t)=β2(t) }\{\,t\mid\beta_1(t)=\beta_2(t)\,\} への全単射になる前層のことです。

この形は、後で Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} と Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の例で使います。

命題5

例2の連続関数の前層 CC は層である。有界な連続関数の前層 BB は層ではない。

証明
  1. CC が (3) をみたすことを示す。UU のどの点 xx もある ViV_i に入り、s∣Vi=0s|_{V_i}=0 なので s(x)=0s(x)=0。
  2. CC が (4) をみたすことを示す。x∈Vix\in V_i のとき s(x)=si(x)s(x)=s_i(x) と定めると、重なりで一致するので矛盾なく決まり、連続になる。
    1. xx が ViV_i と VjV_j の両方に入るとき、si(x)=sj(x)s_i(x)=s_j(x) なので、どちらで決めても同じ値になる。
    2. ss は連続である。R\mathbb{R} の開集合 OO について s−1(O)=⋃isi−1(O)s^{-1}(O)=\bigcup_i s_i^{-1}(O) で、各 si−1(O)s_i^{-1}(O) は ViV_i の開集合、したがって UU の開集合だから。
    3. 作り方から s∣Vi=sis|_{V_i}=s_i。
  3. BB が (4) をみたさないことを示す。U=RU=\mathbb{R} を Vn=(n−1, n+1)V_n=(n-1,\ n+1)(n∈Zn\in\mathbb{Z})で覆い、sns_n を VnV_n 上の関数 x↦xx\mapsto x とする。
    1. 各 sns_n は VnV_n の上で有界(値は n−1n-1 と n+1n+1 の間)なので、sn∈B(Vn)s_n\in B(V_n)。
    2. sns_n どうしは重なりで一致する(どれも x↦xx\mapsto x を制限したもの)。
    3. すべての nn で s∣Vn=sns|_{V_n}=s_n となる関数は、各点 xx で値 xx をとるので、s(x)=xs(x)=x しかない。これは R\mathbb{R} 上で有界ではないので、B(R)B(\mathbb{R}) に入らない。

有界性は、関数全体を見ないと判定できない性質です。狭い範囲でいくら確かめても、全体で有界かどうかは分かりません。層になるのは、連続性のように局所的に判定できる性質で決まる関数の集まりです。

(a) 重なりで一致する → 1つの関数に貼り合う
XX
U1U_1
U2U_2
U3U_3
s1s_1
s2s_2
s3s_3
(b) 重なりで食い違う → 貼り合わせられない
XX
U1U_1
U2U_2
U3U_3
s1s_1
s2′s_2'
s3s_3
薄い紫の帯が重なり U1∩U2U_1\cap U_2、U2∩U3U_2\cap U_3
図1具体例層の条件 (4)(貼り合わせ)。実数直線の区間 XX を3つの開区間 U1,U2,U3U_1,U_2,U_3(下の色つきの線)で覆い、各 UiU_i の上の連続関数 sis_i を同じ色で描いています。(a) では重なり(紫の帯)の上で隣どうしの関数が一致しているので、グラフがつながって1つの連続関数 ss になります。(b) では s2s_2 を上に0.4ずらしたので、重なりの上で食い違い、貼り合わせてできる関数はありません。

茎と芽:点のいくらでも小さい近傍

層は開集合ごとにデータをもちます。点ごとのデータを取り出すには、点を含む開集合をどんどん小さくしていき、その行き先を考えます。

定義6 茎・芽 [1, §II.1 定義, p.86]

F\mathcal{F} を位相空間 XX 上の前層とし、P∈XP\in X とする。PP を含む開集合 UU と s∈F(U)s\in\mathcal{F}(U) の組 (U,s)(U,s) を考える。(U,s)∼(V,t)(U,s)\sim(V,t) を、

P∈W⊆U∩V,s∣W=t∣WP\in W\subseteq U\cap V,\qquad s|_W=t|_W

となる開集合 WW があることと定める。(U,s)(U,s) の同値類を ss の PP での芽と呼び、sPs_P と書く。芽の全体を F\mathcal{F} の PP での茎と呼び、FP\mathcal{F}_P と書く。

「PP のある近傍で一致する切断は、PP で同じ芽をもつ」ということです。近傍はどれだけ小さくてもかまいません。

芽をとる写像 s↦sPs\mapsto s_P は、制限と両立します。P∈V⊆UP\in V\subseteq U なら、次の図式が可換です。

F(U)→ρUVF(V)s↦sP↓↓t↦tPFP=FP\begin{CD} \mathcal{F}(U) @>{\rho_{UV}}>> \mathcal{F}(V) \\ @V{s\mapsto s_P}VV @VV{t\mapsto t_P}V \\ \mathcal{F}_P @= \mathcal{F}_P \end{CD}

(U,s)(U,s) と (V,s∣V)(V,s|_V) は W=VW=V の上で一致するので、(s∣V)P=sP(s|_V)_P=s_P だからです。切断を小さい近傍に制限しても、芽は変わりません。

ハーツホーンは茎を F(U)\mathcal{F}(U)(U∋PU\ni P)の順極限 lim→⁡U∋PF(U)\varinjlim_{U\ni P}\mathcal{F}(U) として定義し、その元が上の同値類で表せることを説明しています。

∼\sim が推移律をみたすのは、WW と W′W' で一致すれば W∩W′W\cap W' でも一致するからです。

茎は環になります。芽の和と積は、代表の切断を共通の小さい近傍に制限してから足したり掛けたりして決めます。

sP+tP=(s∣W+t∣W)P,sP tP=(s∣W t∣W)P(s∈F(U), t∈F(V), W=U∩V)s_P+t_P=\bigl(s|_W+t|_W\bigr)_P,\qquad s_P\,t_P=\bigl(s|_W\,t|_W\bigr)_P\qquad(s\in\mathcal{F}(U),\ t\in\mathcal{F}(V),\ W=U\cap V)

代表を取り替えても結果は変わりません。代表どうしが一致する近傍の上で、和と積も一致するからです。

連続関数の層 CC の点 P=0P=0 で、芽を具体的に見ます。

例7 連続関数の芽

R\mathbb{R} 上の連続関数

f(x)=0.35sin⁡2x+0.25,g(x)=f(x)+1.2max⁡{0, ∣x∣−0.5}2,h(x)=0.25−0.5xf(x)=0.35\sin 2x+0.25,\quad g(x)=f(x)+1.2\max\{0,\ |x|-0.5\}^2,\quad h(x)=0.25-0.5x

を考える。ff と gg は (−0.5, 0.5)(-0.5,\ 0.5) の上で一致するので、f0=g0f_0=g_0(00 での芽が等しい)。一方 f(0)=h(0)=0.25f(0)=h(0)=0.25 だが、00 のどんな近傍の上でも f≠hf\neq h なので、f0≠h0f_0\neq h_0。

証明
  1. ∣x∣≤0.5|x|\leq0.5 では max⁡{0,∣x∣−0.5}=0\max\{0,|x|-0.5\}=0 なので g(x)=f(x)g(x)=f(x)。よって W=(−0.5, 0.5)W=(-0.5,\ 0.5) で f∣W=g∣Wf|_W=g|_W。
  2. f(x)−h(x)=0.35sin⁡2x+0.5xf(x)-h(x)=0.35\sin2x+0.5x は、x≠0x\neq0 が十分0に近いところで0にならない。よって 00 を含むどの開区間の上でも ff と hh は一致しない。

    0<∣x∣≤π/40<|x|\leq\pi/4 では sin⁡2x\sin 2x は xx と同じ符号をもつので、0.35sin⁡2x0.35\sin 2x と 0.5x0.5x は同符号で、和は0にならない。図2を作るプログラムは、描いている範囲 0<∣x∣≤1.40<|x|\leq1.4 のすべての標本点で f(x)≠h(x)f(x)\neq h(x) を確かめている。

P=0P=0
ff と gg が一致する近傍 (−0.5, 0.5)(-0.5,\ 0.5)
ff
gg
hh
図2具体例例7の3つの関数。gg(オレンジの破線)は青い帯 (−0.5, 0.5)(-0.5,\ 0.5) の中で ff(青)とぴったり重なるので、ff と gg は P=0P=0 で同じ芽をもちます。帯の外で離れていても関係ありません。hh(緑)は PP での値が ff と同じですが、PP のすぐ隣でもう ff から離れているので、芽は違います。

連続関数のように「関数の層」の場合、芽 sPs_P から値 s(P)s(P) が決まります。同じ芽の代表は PP の近くで一致するので、PP での値も同じだからです。

しかし逆は成り立ちません。ff と hh は値が同じなのに芽が違いました。芽は値よりも多くを覚えています。

芽は点ごとに別のものを見ています。角のある関数 ∣x∣|x| で確かめます。

例8 ∣x∣|x| の芽

R\mathbb{R} 上の連続関数 φ(x)=∣x∣\varphi(x)=|x| と ψ(x)=x\psi(x)=x について、

φP=ψP  (P>0),φP=(−ψ)P  (P<0),φ0≠ψ0,φ0≠(−ψ)0\varphi_P=\psi_P\ \ (P>0),\qquad \varphi_P=(-\psi)_P\ \ (P<0),\qquad \varphi_0\neq\psi_0,\quad \varphi_0\neq(-\psi)_0

が成り立つ。P=0P=0 での値は3つとも0である。

証明
  1. P>0P>0 なら、PP を含む開集合 W=(0,∞)W=(0,\infty) の上で φ=ψ\varphi=\psi。
  2. P<0P<0 なら、PP を含む開集合 W=(−∞,0)W=(-\infty,0) の上で φ=−ψ\varphi=-\psi。
  3. 00 を含む開集合 WW は、ある ε>0\varepsilon>0 について ±ε/2\pm\varepsilon/2 を含む。φ(−ε/2)=ε/2≠ψ(−ε/2)\varphi(-\varepsilon/2)=\varepsilon/2\neq\psi(-\varepsilon/2)、φ(ε/2)=ε/2≠−ψ(ε/2)\varphi(\varepsilon/2)=\varepsilon/2\neq-\psi(\varepsilon/2) なので、WW の上で φ\varphi は ψ\psi とも −ψ-\psi とも一致しない。

φ\varphi は、00 以外の点では ψ\psi か −ψ-\psi と同じ芽をもちます。しかし 00 では、どちらとも違う芽をもちます。00 に角があることを、芽は覚えています。

芽に値を対応させる写像は、茎 CPC_P から R\mathbb{R} への環準同型です。

CP⟶R,sP⟼s(P)C_P\longrightarrow\mathbb{R},\qquad s_P\longmapsto s(P)

その核は、PP で値が0になる芽の全体 MP={ sP∣s(P)=0 }M_P=\{\,s_P\mid s(P)=0\,\} です。

値が0でない芽は、茎の中で逆元をもちます。s(P)≠0s(P)\neq0 なら、連続性から PP のある近傍 WW で s≠0s\neq0 なので、1/s1/s は WW の上の連続関数で、(1/s)P(1/s)_P が sPs_P の逆元です。例えば P=0P=0 で、1/cos⁡x1/\cos x は (−π/2, π/2)(-\pi/2,\ \pi/2) の上で連続なので、

(cos⁡x)0⋅(1cos⁡x)0=10(\cos x)_0\cdot\Bigl(\frac{1}{\cos x}\Bigr)_0=1_0

です。

値が0の芽 sPs_P は、どの芽と掛けても値が0なので、逆元をもちません。よって CPC_P の単元でない元の全体は MPM_P で、CPC_P はただ1つの極大イデアル MPM_P をもつ局所環です。後で見る局所化 APA_P も同じ形をしています。

層では、切断はすべての点での芽から決まります。

命題9 [1, 命題1.1 の証明, p.87]

F\mathcal{F} を位相空間 XX 上の層、UU を開集合、s,t∈F(U)s,t\in\mathcal{F}(U) とする。すべての P∈UP\in U で sP=tPs_P=t_P なら、s=ts=t である。

証明
  1. 各 P∈UP\in U について、芽が等しいことから、P∈WP⊆UP\in W_P\subseteq U で s∣WP=t∣WPs|_{W_P}=t|_{W_P} となる開集合 WPW_P がある。
  2. {WP}P∈U\{W_P\}_{P\in U} は UU の開被覆で、(s−t)∣WP=s∣WP−t∣WP=0(s-t)|_{W_P}=s|_{W_P}-t|_{W_P}=0。層の条件 (3) から s−t=0s-t=0。

    制限写像は環準同型なので、(s−t)∣W=s∣W−t∣W(s-t)|_{W}=s|_W-t|_W が成り立つ。

「切断は芽で決まる」のであって、「切断は値で決まる」のではありません。この違いが、後で Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の例ではっきり見えます。

もう少し詳しく正則関数の芽とべき級数

複素平面の開集合の上の正則関数も層をなします[1, 例1.0.2, p.85]。正則関数は各点のまわりでべき級数に展開できるので、点 00 での芽は、00 のまわりで収束するべき級数 ∑anzn\sum a_nz^n と1対1に対応します。芽が値 a0a_0 よりずっと多くの情報(すべての係数)を覚えている、典型的な例です。

連続関数の芽はもっと大きく、べき級数のような簡単な記述はありません。図2の ff と gg のように、点のまわりで一致していても、少し離れると違う関数が無数にあります。

局所化:分母を許す

Spec⁡A\operatorname{Spec}A の上の関数を作るために、環の分数を使います。

定義10 局所化 [2, §3.1, p.56; 2, §3.1 例1), 3), p.58]

環 AA の部分集合 SS が 1∈S1\in S をみたし、積について閉じているとき、SS を積閉集合と呼ぶ。a∈A, s∈Sa\in A,\ s\in S の組を a/sa/s と書き、u(at−bs)=0u(at-bs)=0 となる u∈Su\in S があるとき a/s=b/ta/s=b/t と同一視したものの全体を S−1AS^{-1}A と書く。和と積を分数と同じ式で定めると環になる。とくに、

  • 素イデアル PP について S=A∖PS=A\setminus P とした環を APA_P と書き、AA の PP での局所化と呼ぶ。
  • f∈Af\in A について S={1,f,f2,… }S=\{1,f,f^2,\dots\} とした環を AfA_f と書く。

式で書くと、同一視と演算は次のとおりです。

as=bt  ⟺  ∃u∈S, u(at−bs)=0as+bt=at+bsst,as⋅bt=abst\begin{gathered} \frac{a}{s}=\frac{b}{t}\iff\exists u\in S,\ u(at-bs)=0\\[4pt] \frac{a}{s}+\frac{b}{t}=\frac{at+bs}{st},\qquad \frac{a}{s}\cdot\frac{b}{t}=\frac{ab}{st} \end{gathered}

a∈Aa\in A を a/1a/1 に送る環準同型 A→S−1AA\to S^{-1}A があり、SS の元 ss の像は S−1AS^{-1}A の中で逆元 1/s1/s をもちます。

A∖PA\setminus P が積について閉じているのは、PP が素イデアルだからです。

同一視の条件に uu が入っているのは、0でない元が局所化で0になることがあるからです。

例11 局所化で0になる元

A=Z/12ZA=\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}、S={1,3,9}S=\{1,3,9\}(3のべきを12で割った余り)とする。SS は積閉集合で、S−1AS^{-1}A の中で 4/1=0/14/1=0/1 である。

証明
  1. SS は積について閉じている。3⋅3=93\cdot3=9、3⋅9=27≡33\cdot9=27\equiv3、9⋅9=81≡9(mod12)9\cdot9=81\equiv9\pmod{12}。
  2. u=3u=3 とすると 3⋅(4⋅1−0⋅1)=12≡03\cdot(4\cdot1-0\cdot1)=12\equiv0 なので、4/1=0/14/1=0/1。
  3. uu を省いた条件 at=bsat=bs では、この等式は出てこない。4⋅1−0⋅1=4≠04\cdot1-0\cdot1=4\neq0 である。

分母に3を許すと、3と掛けると0になる4は、0と同じ元になります。この局所化は、最後の Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の例でもう一度出てきます。

AA が整域なら、uu は0でないので条件は at=bsat=bs になり、S−1AS^{-1}A は商体 Frac⁡A\operatorname{Frac}A の部分環とみなせます(0∉S0\notin S のとき)。例を挙げます[2, §3.1 例5), p.58]。

  • Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} は、分母が5で割り切れない有理数の全体です。第2回に出てきた環です。
  • Z6=Z[1/6]\mathbb{Z}_6=\mathbb{Z}[1/6] は、分母が 66 のべき(約分すれば2と3だけの積)の有理数の全体です。
  • k[x](x−a)k[x]_{(x-a)} は、分母が x=ax=a で0にならない有理関数 g/hg/h(h(a)≠0h(a)\neq0)の全体です。

数を入れると、次のようになります。

34,  1015=23∈Z(5),15,  710∉Z(5)\frac34,\ \ \frac{10}{15}=\frac23\in\mathbb{Z}_{(5)},\qquad \frac15,\ \ \frac{7}{10}\notin\mathbb{Z}_{(5)} 14=936,  712=2136∈Z[1/6],15∉Z[1/6]\frac14=\frac{9}{36},\ \ \frac{7}{12}=\frac{21}{36}\in\mathbb{Z}[1/6],\qquad \frac15\notin\mathbb{Z}[1/6] 1x,  x2−1x−1=x+1∈k[x](x−1),1x−1∉k[x](x−1)\frac1x,\ \ \frac{x^2-1}{x-1}=x+1\in k[x]_{(x-1)},\qquad \frac{1}{x-1}\notin k[x]_{(x-1)}

10/1510/15 は分母が5で割り切れますが、約分すると 2/32/3 になるので Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} に入ります。「分母が5で割り切れない」は、そう書ける表し方が1つあればよいという意味です。

1/41/4 の分母は6のべきではありませんが、分母と分子に9を掛けると分母が 36=6236=6^2 になります。分母が2と3だけの積なら、いつでもこうして6のべきにそろえられます。

APA_P は局所環で、ただ1つの極大イデアルは a/sa/s(a∈Pa\in P)の全体です[2, §3.1 例1), p.58]。

APA_P の元 a/sa/s に、第2回の剰余体 κ(P)\kappa(P) の元 a(P)/s(P)a(P)/s(P) を対応させると、分数の「点 PP での値」が決まります。s∉Ps\notin P なので、分母の値 s(P)s(P) は0ではありません。

A⟶AP⟶κ(P),a⟼a1⟼a(P),as⟼a(P)s(P)A\longrightarrow A_P\longrightarrow\kappa(P),\qquad a\longmapsto\frac{a}{1}\longmapsto a(P),\qquad \frac{a}{s}\longmapsto\frac{a(P)}{s(P)}

値が0になる分数は、分子が PP に入るもの、つまり APA_P の極大イデアルの元です。値が0でない分数 a/sa/s(a∉Pa\notin P)は、APA_P の中で逆元 s/as/a をもちます。

A=ZA=\mathbb{Z}、P=(5)P=(5) なら、値は F5\mathbb{F}_5 の元です。4⋅4=16≡1(mod5)4\cdot4=16\equiv1\pmod5 から 4−1=44^{-1}=4 なので、

Z(5)⟶F5,34⟼3⋅4−1=3⋅4=12≡2,53⟼0\mathbb{Z}_{(5)}\longrightarrow\mathbb{F}_5,\qquad \frac34\longmapsto3\cdot4^{-1}=3\cdot4=12\equiv2,\qquad \frac53\longmapsto0

です。2⋅4=8≡32\cdot4=8\equiv3 なので、確かに F5\mathbb{F}_5 の中で 3/4=23/4=2 です。

3/43/4 は Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} の単元(逆元は 4/34/3)で、5/35/3 は極大イデアルの元です。

局所化に対応する開集合も用意しておきます。f∈Af\in A について

D(f)=Spec⁡A∖V(f)={ P∈Spec⁡A∣f∉P }D(f)=\operatorname{Spec}A\setminus V(f)=\{\,P\in\operatorname{Spec}A\mid f\notin P\,\}

とおきます。f∉Pf\notin P は f(P)≠0f(P)\neq0 と同じなので、D(f)D(f) は「ff の値が0でない点」の集合で、開集合です。D(f)D(f) の上では ff で割ってよい、と考えるのが局所化 AfA_f です。

D(6)=Spec⁡Z∖{(2),(3)},D(x2−1)=Spec⁡k[x]∖{(x−1), (x+1)}D(6)=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}\setminus\{(2),(3)\},\qquad D(x^2-1)=\operatorname{Spec}k[x]\setminus\{(x-1),\ (x+1)\}

66 を含む素イデアルは (2)(2) と (3)(3)、x2−1=(x−1)(x+1)x^2-1=(x-1)(x+1) を含む素イデアルは (x−1)(x-1) と (x+1)(x+1) だけだからです(kk の標数が2なら x+1=x−1x+1=x-1 なので、除くのは1点です)。Z6=Z[1/6]\mathbb{Z}_6=\mathbb{Z}[1/6] は、D(6)D(6) の上で2と3で割ってよい環です。

命題12 [1, p.97]

(1) D(f)∩D(g)=D(fg)D(f)\cap D(g)=D(fg)。
(2) Spec⁡A\operatorname{Spec}A のどの開集合も、D(f)D(f) の形の開集合の和集合である。

証明
  1. (1) PP は素イデアルなので、fg∉P  ⟺  f∉Pfg\notin P\iff f\notin P かつ g∉Pg\notin P。
  2. (2) 開集合 U=Spec⁡A∖V(S)U=\operatorname{Spec}A\setminus V(S) の点 PP をとる。S⊈PS\not\subseteq P なので f∉Pf\notin P となる f∈Sf\in S があり、P∈D(f)⊆UP\in D(f)\subseteq U。

    D(f)⊆UD(f)\subseteq U を確かめる。Q∈V(S)Q\in V(S) なら f∈S⊆Qf\in S\subseteq Q なので Q∉D(f)Q\notin D(f)。よって D(f)∩V(S)=∅D(f)\cap V(S)=\varnothing。

例えば Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} で、(1) から D(2)∩D(3)=D(6)D(2)\cap D(3)=D(6) です。また、素イデアルは fn∈P  ⟺  f∈Pf^n\in P\iff f\in P をみたすので D(fn)=D(f)D(f^n)=D(f) で、例えば D(12)=D(4)∩D(3)=D(2)∩D(3)=D(6)D(12)=D(4)\cap D(3)=D(2)\cap D(3)=D(6) です。

Spec の構造層

いよいよ Spec⁡A\operatorname{Spec}A の上の関数を定義します。各点 PP で APA_P の元を値にとり、各点の近くでは1つの分数で書けるものを、関数と呼ぶことにします。

定義13 構造層 [1, §II.2, p.96]

AA を環とする。Spec⁡A\operatorname{Spec}A の開集合 UU に対して、O(U)\mathcal{O}(U) を、次の条件をみたす写像 s ⁣:U→⨆P∈UAPs\colon U\to\bigsqcup_{P\in U}A_P の全体とする。

  • 各 P∈UP\in U について s(P)∈APs(P)\in A_P。
  • ss は局所的に分数で書ける:各 P∈UP\in U に対して、P∈V⊆UP\in V\subseteq U となる開集合 VV と a,f∈Aa,f\in A があって、すべての Q∈VQ\in V で f∉Qf\notin Q かつ AQA_Q の中で s(Q)=a/fs(Q)=a/f となる。

和と積は点ごとに定め、V⊆UV\subseteq U の制限写像は写像の定義域を VV に狭めるものとする。O\mathcal{O} を Spec⁡A\operatorname{Spec}A の構造層と呼ぶ。

O\mathcal{O} は環の前層で、層の条件もみたします[1, p.96]。O(U)\mathcal{O}(U) の元は点ごとに値を決めた写像で、「局所的に分数で書ける」という条件は各点の近くだけで確かめられるからです。連続関数の層と同じ理由です。

第1回の多項式との違いは、値の置き場所です。第1回の関数は各点で体 kk の値をとりました。構造層の切断は、各点 PP で局所環 APA_P の元をとります。

APA_P の元は、値 κ(P)\kappa(P) よりも多くの情報をもっています。この違いは、後の重なった点の例で大事になります。

構造層の基本的な性質は、次の定理にまとまっています。

定理14 [1, 命題2.2, p.97]

AA を環とする。

(1) 各点 P∈Spec⁡AP\in\operatorname{Spec}A で、茎 OP\mathcal{O}_P は局所化 APA_P と同型である。
(2) 各 f∈Af\in A について、O(D(f))\mathcal{O}(D(f)) は AfA_f と同型である。
(3) とくに O(Spec⁡A)≅A\mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)\cong A。

(2) の同型は、a/fn∈Afa/f^n\in A_f を「各点 P∈D(f)P\in D(f) で a/fn∈APa/f^n\in A_P をとる切断」に送るものです。(3) は (2) で f=1f=1 としたもので、「Spec⁡A\operatorname{Spec}A 全体の上の関数は、もとの環 AA の元だけ」と言っています。

(1) の同型は、芽 sPs_P に、切断 ss が点 PP でとる元 s(P)∈APs(P)\in A_P を対応させるものです。

OP→ ≅ AP,sP⟼s(P)\mathcal{O}_P\xrightarrow{\ \cong\ }A_P,\qquad s_P\longmapsto s(P)

(2) の同型は、制限とも両立します。g∈Ag\in A について D(fg)⊆D(f)D(fg)\subseteq D(f) で、次の図式が可換です。左の縦の矢印は a/fn↦agn/(fg)na/f^n\mapsto ag^n/(fg)^n、右の縦の矢印は制限写像です。

Af→≅O(D(f))↓↓ρAfg→≅O(D(fg))\begin{CD} A_f @>{\cong}>> \mathcal{O}(D(f)) \\ @VVV @VV{\rho}V \\ A_{fg} @>{\cong}>> \mathcal{O}(D(fg)) \end{CD}

どちらの道を通っても、a/fna/f^n は「D(fg)D(fg) の各点 PP で a/fn∈APa/f^n\in A_P をとる切断」になります。APA_P の中で a/fn=agn/(fg)na/f^n=ag^n/(fg)^n が成り立つからです(agn⋅fn−a⋅(fg)n=0ag^n\cdot f^n-a\cdot(fg)^n=0)。

一般の環での証明はハーツホーン p.97–98 にあり、(2) の全射性が難しい部分です。

この記事では、AA が整域の場合に証明します。整域なら、すべての APA_P が1つの体 Frac⁡A\operatorname{Frac}A の中に入るので、見通しよく示せます。

命題15 整域の場合

AA を整域、K=Frac⁡AK=\operatorname{Frac}A とし、UU を空でない開集合とする。切断 s∈O(U)s\in\mathcal{O}(U) は、すべての点で同じ KK の元をとる。この元を対応させると、

O(U)≅⋂P∈UAP\mathcal{O}(U)\cong\bigcap_{P\in U}A_P

(右辺は KK の中の共通部分)となり、制限写像は共通部分どうしの包含になる。

証明
  1. AA が整域なので、各 APA_P は KK の部分環である。よって切断 ss は、s(P)∈APs(P)\in A_P をみたす写像 U→KU\to K とみなせる。
  2. 空でない開集合は、どれも点 (0)(0) を含む。

    (0)(0) は素イデアルで、第2回で見たとおり、その閉包は Spec⁡A\operatorname{Spec}A 全体である。開集合 VV が (0)(0) を含まなければ、(0)(0) は閉集合 Spec⁡A∖V\operatorname{Spec}A\setminus V に入り、その閉包である全体も Spec⁡A∖V\operatorname{Spec}A\setminus V に含まれる。よって V=∅V=\varnothing。

  3. ss は定数である。どの点 P∈UP\in U でも s(P)=s((0))s(P)=s((0))。

    PP に対して、定義の開集合 V∋PV\ni P と分数 a/fa/f をとる。前のステップから (0)∈V(0)\in V なので、s(P)=a/f=s((0))s(P)=a/f=s((0))(KK の元として)。

  4. よって s↦s((0))s\mapsto s((0)) は単射な環準同型 O(U)→K\mathcal{O}(U)\to K で、像は ⋂P∈UAP\bigcap_{P\in U}A_P に入る(s((0))=s(P)∈APs((0))=s(P)\in A_P)。
  5. 像が共通部分全体であることを示す。c∈⋂P∈UAPc\in\bigcap_{P\in U}A_P なら、すべての点で cc をとる定数写像が O(U)\mathcal{O}(U) に入る。

    P∈UP\in U に対して c=a/fc=a/f(f∉Pf\notin P)と書き、V=U∩D(f)V=U\cap D(f) とおく。Q∈VQ\in V なら f∉Qf\notin Q で、AQA_Q の中で c=a/fc=a/f。よって定数写像は局所的に分数で書ける。

  6. 制限しても定数は変わらないので、制限写像は包含になる。

整域の場合、UU の上の関数とは「UU のどの点でも、分母がその点で0にならないように書ける分数」のことです。点によって違う書き方をしてかまいません。

系16 定理14の整域の場合

AA を整域とする。KK の中で、次が成り立つ。

(1) f≠0f\neq0 なら O(D(f))=Af\mathcal{O}(D(f))=A_f。
(2) O(Spec⁡A)=A\mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)=A。
(3) OP=AP\mathcal{O}_P=A_P。

証明
  1. (1) f≠0f\neq0 なので D(f)D(f) は点 (0)(0) を含み、空でない。命題15より O(D(f))=⋂Q∈D(f)AQ\mathcal{O}(D(f))=\bigcap_{Q\in D(f)}A_Q なので、これが AfA_f に等しいことを示す。AfA_f の元 a/fna/f^n は、fn∉Qf^n\notin Q なので各 AQA_Q に入る。
  2. 逆に c∈⋂Q∈D(f)AQc\in\bigcap_{Q\in D(f)}A_Q とし、cc の「分母のイデアル」J={ a∈A∣ac∈A }J=\{\,a\in A\mid ac\in A\,\} を考える。D(f)D(f) のどの点 QQ も JJ を含まない。

    JJ はイデアルである。Q∈D(f)Q\in D(f) なら、c∈AQc\in A_Q なので c=a/gc=a/g(g∉Qg\notin Q)と書けて、gc=a∈Agc=a\in A。よって g∈Jg\in J で、g∉Qg\notin Q なので J⊈QJ\not\subseteq Q。

  3. よって V(J)∩D(f)=∅V(J)\cap D(f)=\varnothing、つまり V(J)⊆V(f)V(J)\subseteq V(f)。第2回の命題3(4) から f∈Jf\in\sqrt{J}。

    第2回の命題3(4) は「V(J)⊆V(K)  ⟺  K⊆JV(J)\subseteq V(K)\iff\sqrt{K}\subseteq\sqrt{J}」。K=(f)K=(f) とすると f∈(f)⊆Jf\in\sqrt{(f)}\subseteq\sqrt{J}。

  4. ある nn で fn∈Jf^n\in J、つまり fnc=a∈Af^nc=a\in A。よって c=a/fn∈Afc=a/f^n\in A_f。
  5. (2) は (1) で f=1f=1 とした場合。D(1)=Spec⁡AD(1)=\operatorname{Spec}A、A1=AA_1=A。
  6. (3) 制限写像が KK の中の包含なので、茎は和集合 OP=⋃U∋PO(U)\mathcal{O}_P=\bigcup_{U\ni P}\mathcal{O}(U) になる。

    2つの芽 (U,s)(U,s)、(V,t)(V,t) が等しいことは、ss と tt が KK の元として等しいことと同じである。等しければ W=U∩VW=U\cap V(PP を含む)の上で一致し、逆に WW の上で一致すれば、制限で元は変わらないので s=ts=t。よって芽は KK の元と同一視でき、茎は O(U)\mathcal{O}(U)(U∋PU\ni P)の和集合になる。

  7. この和集合が APA_P に等しい。P∈UP\in U なら O(U)⊆AP\mathcal{O}(U)\subseteq A_P。逆に a/f∈APa/f\in A_P(f∉Pf\notin P)は Af=O(D(f))A_f=\mathcal{O}(D(f)) に入り、P∈D(f)P\in D(f)。

系16(1) の証明の「分母のイデアル」JJ と fnf^n を、数で追ってみます。

例17 分母のイデアル

A=ZA=\mathbb{Z}、f=6f=6、c=7/12c=7/12 とする。cc は D(6)D(6) のどの点 QQ でも ZQ\mathbb{Z}_Q に入る。分母のイデアル J={ a∈Z∣ac∈Z }J=\{\,a\in\mathbb{Z}\mid ac\in\mathbb{Z}\,\} は 12Z12\mathbb{Z} で、6∉J6\notin J、62∈J6^2\in J なので、

c=712=7⋅336=2162∈Z6c=\frac{7}{12}=\frac{7\cdot3}{36}=\frac{21}{6^2}\in\mathbb{Z}_6

と書ける。

証明
  1. D(6)D(6) の点は (0)(0) と、2でも3でもない素数 pp の (p)(p)。12=22⋅312=2^2\cdot3 は pp で割り切れないので c∈Z(p)c\in\mathbb{Z}_{(p)}、また c∈Q=Z(0)c\in\mathbb{Q}=\mathbb{Z}_{(0)}。
  2. J={ a∈Z∣7a/12∈Z }={ a∈Z∣7a∈12Z }J=\{\,a\in\mathbb{Z}\mid 7a/12\in\mathbb{Z}\,\}=\{\,a\in\mathbb{Z}\mid 7a\in12\mathbb{Z}\,\} で、77 と 1212 は互いに素なので J=12ZJ=12\mathbb{Z}。
  3. V(J)=V(12)={(2),(3)}=V(6)V(J)=V(12)=\{(2),(3)\}=V(6) で、確かに 6∈J6\in\sqrt{J}。6∉12Z6\notin12\mathbb{Z} だが 36=3⋅12∈J36=3\cdot12\in J なので、n=2n=2 が要る。
  4. 62c=36⋅7/12=21∈Z6^2c=36\cdot7/12=21\in\mathbb{Z} なので c=21/62c=21/6^2。

n=1n=1 では足りません。6c=7/26c=7/2 は整数ではないからです。分母 1212 が 22 を2回含むので、66 を2回掛ける必要があります。

(3) の証明で、茎が「近傍の上の関数の和集合」になったのは、整域で制限写像がすべて単射だったからです。整域でない環では、近傍を縮めると0になる元が出てくるので、茎は単なる和集合ではありません。この違いは最後の2つの例で見ます。

Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の上の関数

第2回で見た Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} に、構造層を載せます。

例18 Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の構造層

Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の空でない開集合は、有限個の閉点 (p1),…,(pr)(p_1),\dots,(p_r) を除いた集合 D(b)D(b)(b=p1⋯prb=p_1\cdots p_r)であり、

O(D(b))=Z[1/b],O(p)=Z(p),O(0)=Q\mathcal{O}(D(b))=\mathbb{Z}[1/b],\qquad \mathcal{O}_{(p)}=\mathbb{Z}_{(p)},\qquad \mathcal{O}_{(0)}=\mathbb{Q}

である。ここで Z[1/b]=Zb\mathbb{Z}[1/b]=\mathbb{Z}_b は、分母が bb のべきの有理数の全体である。

証明
  1. 第2回の例9のとおり、Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の閉集合は、(0)(0) を含まない有限集合と全体だけ。よって空でない開集合は、有限個の閉点を除いた集合で、それは D(p1⋯pr)D(p_1\cdots p_r) に等しい。

    b=p1⋯prb=p_1\cdots p_r を含む素イデアルは (p1),…,(pr)(p_1),\dots,(p_r) だけなので、D(b)D(b) はちょうどこれらを除いた集合である。r=0r=0 なら b=1b=1 で、D(1)D(1) は全体。

  2. Z\mathbb{Z} は整域なので、系16から O(D(b))=Zb\mathcal{O}(D(b))=\mathbb{Z}_b、O(p)=Z(p)\mathcal{O}_{(p)}=\mathbb{Z}_{(p)}、O(0)=Z(0)=Q\mathcal{O}_{(0)}=\mathbb{Z}_{(0)}=\mathbb{Q}。

整数 nn は Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} 全体の上の関数で、1/21/2 は点 (2)(2) を除いた開集合 D(2)D(2) の上の関数です。1/21/2 は点 (2)(2) で「分母が0になる」ので、そこまでは延ばせません。

一般の有理数でも、どこまで延ばせるかは分母で決まります。

例19 有理数を関数として見る

命題15で O(U)\mathcal{O}(U) を Q\mathbb{Q} の部分環とみる。既約分数 c=a/dc=a/d(d≥1d\geq1)と空でない開集合 UU について、c∈O(U)c\in\mathcal{O}(U) となるのは U⊆D(d)U\subseteq D(d) のときで、そのときに限る。例えば c=7/12c=7/12 は D(12)=D(6)D(12)=D(6) の上の関数で、点 (5),(7),(11),(13)(5),(7),(11),(13) での値は、それぞれ F5,F7,F11,F13\mathbb{F}_5,\mathbb{F}_7,\mathbb{F}_{11},\mathbb{F}_{13} の元 1,0,7,61,0,7,6 である。

証明
  1. 素数 pp について、c∈Z(p)  ⟺  p∤dc\in\mathbb{Z}_{(p)}\iff p\nmid d。また c∈Q=Z(0)c\in\mathbb{Q}=\mathbb{Z}_{(0)} はいつも成り立つ。

    p∤dp\nmid d なら、定義から c∈Z(p)c\in\mathbb{Z}_{(p)}。

    逆に c=a′/sc=a'/s(p∤sp\nmid s)とも書けたとすると、as=a′das=a'd。p∣dp\mid d なら p∣asp\mid as で、a/da/d は既約なので p∤ap\nmid a、よって p∣sp\mid s となり矛盾する。

  2. 命題15から、c∈O(U)  ⟺  c\in\mathcal{O}(U)\iff すべての P∈UP\in U で c∈ZPc\in\mathbb{Z}_P。前のステップから、これは「UU が dd を割る素数 pp の点 (p)(p) を含まない」こと、つまり U⊆D(d)U\subseteq D(d) と同じ。
  3. 値は、Fp\mathbb{F}_p の中で 7⋅12−17\cdot12^{-1} を計算したもの。

    p=5p=5:12≡212\equiv2、2−1=32^{-1}=3 なので 7⋅3=21≡17\cdot3=21\equiv1。

    p=7p=7:分子 7≡07\equiv0 なので値は0。

    p=11p=11:12≡112\equiv1 なので値は 77。

    p=13p=13:12≡−112\equiv-1 なので値は −7≡6-7\equiv6。

点 PP(0)(0)(2)(2)、(3)(3)(5)(5)(7)(7)(11)(11)(13)(13)
κ(P)\kappa(P)Q\mathbb{Q}F2\mathbb{F}_2、F3\mathbb{F}_3F5\mathbb{F}_5F7\mathbb{F}_7F11\mathbb{F}_{11}F13\mathbb{F}_{13}
7/127/12 の値7/127/12(定義されない)11007766

7/127/12 は、点 (7)(7) で値が0になり、点 (2)(2)、(3)(3) では分母が0になって定義されません。有理関数 (x−7)/((x−2)2(x−3))(x-7)/\bigl((x-2)^2(x-3)\bigr) が x=7x=7 に零点、x=2,3x=2,3 に極をもつのと同じ形です。

点 (5)(5) の近傍を小さくしていくことは、(5)(5) 以外の閉点を有限個ずつ除いていくことです。除くたびに、割ってよい素数が増えます。近傍を限りなく縮めた行き先が茎で、5以外のどの素数で割ってもよい有理数、つまり Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} です。

図3の近傍と環を並べると、次のようになります。462=2⋅3⋅7⋅11462=2\cdot3\cdot7\cdot11 です。

Spec⁡Z⊃D(2)⊃D(6)⊃D(462)⊃⋯Z⊂Z[1/2]⊂Z[1/6]⊂Z[1/462]⊂⋯\begin{array}{ccccccccc} \operatorname{Spec}\mathbb{Z} & \supset & D(2) & \supset & D(6) & \supset & D(462) & \supset & \cdots\\[2pt] \mathbb{Z} & \subset & \mathbb{Z}[1/2] & \subset & \mathbb{Z}[1/6] & \subset & \mathbb{Z}[1/462] & \subset & \cdots \end{array} O(5)=⋃5∤bZ[1/b]=Z(5)⊂Q=O(0)\mathcal{O}_{(5)}=\bigcup_{5\nmid b}\mathbb{Z}[1/b]=\mathbb{Z}_{(5)}\subset\mathbb{Q}=\mathcal{O}_{(0)}

上の行が点 (5)(5) の近傍、下の行がその上の関数の環です。開集合が小さくなると環は大きくなり、制限写像は Q\mathbb{Q} の中の包含です。和集合が茎になることは、系16(3) の証明で見ました。

和集合が Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} になるのは、次の2つからです。a/sa/s(5∤s5\nmid s)は Z[1/s]\mathbb{Z}[1/s] に入ります。逆に 5∤b5\nmid b なら、Z[1/b]\mathbb{Z}[1/b] の元の分母 bnb^n は5で割り切れません。

(2)(2)
(3)(3)
(5)(5)
(7)(7)
(11)(11)
(13)(13)
…
(0)(0)
その上の関数
Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}
…
Z\mathbb{Z}
D(2)D(2)
…
Z[1/2]\mathbb{Z}[1/2]
D(6)D(6)
…
Z[1/6]\mathbb{Z}[1/6]
D(462)D(462)
…
Z[1/462]\mathbb{Z}[1/462]
茎
Z(5)\mathbb{Z}_{(5)}
白抜きの円=その近傍から除いた閉点 灰色の楕円=生成点 (0)(0)
図3概念図Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の点 (5)(5)(オレンジ)の近傍を、下の行へ行くほど小さくしています。各行が1つの開集合で、黒い点が残っている閉点、白抜きの円が除いた閉点、灰色の楕円が生成点 (0)(0) です。右に、その近傍の上の関数の環を書いています。生成点はどの近傍にも残ります。破線の下の行だけは開集合ではなく、近傍を縮めた行き先の茎 Z(5)\mathbb{Z}_{(5)} です。

ザリスキー位相の近傍は、実数直線の小さな区間とはまったく違います。どれだけ縮めても、除いたのは有限個の閉点だけで、無限個の閉点が残ります。それでも茎は、近傍の上の関数から「点 (5)(5) のまわりの情報」だけを取り出しています。

どの近傍にも必ず残る点は (5)(5) と生成点 (0)(0) の2つだけで、この2点からなる空間が、第2回の Spec⁡Z(5)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(5)} です。第2回で「点 (5)(5) のまわりだけを見る」と書いたのは、この意味です。

層の条件 (4) も、Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の上で具体的に確かめられます。

例20 D(2)D(2) と D(3)D(3) の貼り合わせ

Spec⁡Z=D(2)∪D(3)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}=D(2)\cup D(3) で、重なりは D(6)D(6) である。s1∈Z[1/2]s_1\in\mathbb{Z}[1/2] と s2∈Z[1/3]s_2\in\mathbb{Z}[1/3] が D(6)D(6) の上で一致する(有理数として等しい)なら、それは整数である。つまり Z[1/2]∩Z[1/3]=Z\mathbb{Z}[1/2]\cap\mathbb{Z}[1/3]=\mathbb{Z}。

証明
  1. D(2)∪D(3)D(2)\cup D(3) が全体になるのは、2と3の両方を含む素イデアルがないから。重なりは命題12(1) から D(6)D(6)。
  2. s=b/2i=c/3js=b/2^i=c/3^j(b,c∈Zb,c\in\mathbb{Z})と書く。2i2^i と 3j3^j は互いに素なので、1=u2i+v3j1=u2^i+v3^j となる整数 u,vu,v がある。
  3. s=s⋅(u2i+v3j)=ub+vcs=s\cdot(u2^i+v3^j)=ub+vc で、右辺は整数。

数で確かめます。s=5s=5 を D(2)D(2) の上では 40/2340/2^3、D(3)D(3) の上では 45/3245/3^2 と書きます。1=(−1)⋅23+1⋅321=(-1)\cdot2^3+1\cdot3^2 なので、

s=s⋅((−1)⋅8+1⋅9)=(−1)⋅40+1⋅45=5s=s\cdot\bigl((-1)\cdot8+1\cdot9\bigr)=(-1)\cdot40+1\cdot45=5

と、整数の式に戻ります。

層の条件の写像の列で書くと、次のようになります。

Z→ α Z[1/2]×Z[1/3] ⇉β2β1 Z[1/6],α(n)=(n,n),β1(s1,s2)=s1,β2(s1,s2)=s2\mathbb{Z}\xrightarrow{\ \alpha\ }\mathbb{Z}[1/2]\times\mathbb{Z}[1/3]\ \overset{\beta_1}{\underset{\beta_2}{\rightrightarrows}}\ \mathbb{Z}[1/6],\qquad \alpha(n)=(n,n),\quad \beta_1(s_1,s_2)=s_1,\quad \beta_2(s_1,s_2)=s_2

i=ji=j の成分では β1\beta_1 と β2\beta_2 は自動的に一致し、(1,2)(1,2) と (2,1)(2,1) の成分は同じ条件を表すので、重なり D(6)D(6) の成分だけを書いています。例20は、β1(t)=β2(t)\beta_1(t)=\beta_2(t) となる t=(s1,s2)t=(s_1,s_2) がちょうど α\alpha の像だと言っています。

この証明の 1=u2i+v3j1=u2^i+v3^j は、「D(2i)D(2^i) と D(3j)D(3^j) で全体が覆える」ことを環の式で書いたものです。ハーツホーンの一般の証明でも、D(f)D(f) を D(hi)D(h_i) で覆うことを fn=∑bihif^n=\sum b_ih_i という式に直して、局所的な分数を貼り合わせています[1, p.98]。

Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} 全体ではなく開集合 D(5)D(5) を覆う場合も、同じ形の式が出てきます。

例21 D(10)D(10) と D(15)D(15) の貼り合わせ

Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} で D(5)=D(10)∪D(15)D(5)=D(10)\cup D(15) であり、重なりは D(30)D(30) である。Q\mathbb{Q} の中で Z[1/10]∩Z[1/15]=Z[1/5]\mathbb{Z}[1/10]\cap\mathbb{Z}[1/15]=\mathbb{Z}[1/5] が成り立つ。例えば

325=12102=27152,52=(−2)⋅102+1⋅15252⋅325=(−2)⋅12+1⋅27=3\begin{gathered} \frac{3}{25}=\frac{12}{10^2}=\frac{27}{15^2},\qquad 5^2=(-2)\cdot10^2+1\cdot15^2\\ 5^2\cdot\frac{3}{25}=(-2)\cdot12+1\cdot27=3 \end{gathered}
証明
  1. D(10)∪D(15)D(10)\cup D(15) の補集合は V(10)∩V(15)V(10)\cap V(15) で、これは10と15の両方を割る素数の点、つまり {(5)}=V(5)\{(5)\}=V(5)。よって D(10)∪D(15)=D(5)D(10)\cup D(15)=D(5)。
  2. 重なりは命題12(1) から D(150)D(150) で、150=2⋅3⋅52150=2\cdot3\cdot5^2 を割る素数は2, 3, 5なので D(150)=D(30)D(150)=D(30)。
  3. Z[1/5]\mathbb{Z}[1/5] は両方に入る。1/5=2/10=3/151/5=2/10=3/15 だから。
  4. 逆に s∈Z[1/10]∩Z[1/15]s\in\mathbb{Z}[1/10]\cap\mathbb{Z}[1/15] とする。ある mm で 5ms5^ms は Z[1/2]∩Z[1/3]\mathbb{Z}[1/2]\cap\mathbb{Z}[1/3] に入るので、例20から整数になり、s∈Z[1/5]s\in\mathbb{Z}[1/5]。

    s=b/10i=c/15js=b/10^i=c/15^j と書き、m=max⁡{i,j}m=\max\{i,j\} とおく。

    5ms=5m−ib2i=5m−jc3j5^ms=\frac{5^{m-i}b}{2^i}=\frac{5^{m-j}c}{3^j}

    なので、5ms∈Z[1/2]∩Z[1/3]=Z5^ms\in\mathbb{Z}[1/2]\cap\mathbb{Z}[1/3]=\mathbb{Z}。よって s=5ms/5m∈Z[1/5]s=5^ms/5^m\in\mathbb{Z}[1/5]。

例の式 52=(−2)⋅102+1⋅1525^2=(-2)\cdot10^2+1\cdot15^2 は、ハーツホーンの fn=∑bihif^n=\sum b_ih_i で f=5f=5、h1=102h_1=10^2、h2=152h_2=15^2、n=2n=2 とした形です。「D(102)D(10^2) と D(152)D(15^2) で D(5)D(5) が覆える」ことを、環の式で書いています。

同じように、代数閉体 kk 上の直線 Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x] では、O(D(f))=k[x]f\mathcal{O}(D(f))=k[x]_f は「ff の根にだけ極をもつ有理関数」の環で、閉点 (x−a)(x-a) での茎 k[x](x−a)k[x]_{(x-a)} は「x=ax=a に極をもたない有理関数」の環、生成点での茎は有理関数体 k(x)k(x) です。Z\mathbb{Z} の素数 pp が、k[x]k[x] の1次式 x−ax-a に当たります。

例えば次のとおりです。

1x,  x+2x2(x−1)3∈k[x]x(x−1)=O(D(x(x−1))),1x∈k[x](x−1),1x∉k[x](x)\frac1x,\ \ \frac{x+2}{x^2(x-1)^3}\in k[x]_{x(x-1)}=\mathcal{O}\bigl(D(x(x-1))\bigr),\qquad \frac1x\in k[x]_{(x-1)},\quad \frac1x\notin k[x]_{(x)}

1/x1/x は点 (x−1)(x-1) の茎に入り、そこでの値は 1/1=11/1=1 です。点 (x)(x) では分母が0になるので、1/x1/x は点 (x)(x) の茎に入りません。

重なった点の上の関数

前回の宿題に戻ります。

例22 Spec⁡k\operatorname{Spec}k と Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)

kk を体、A=k[x]/(x2)A=k[x]/(x^2) とする。Spec⁡A\operatorname{Spec}A と Spec⁡k\operatorname{Spec}k はどちらも1点からなる空間だが、

O(Spec⁡k)=k,O(Spec⁡A)=A=k[x]/(x2)\mathcal{O}(\operatorname{Spec}k)=k,\qquad \mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)=A=k[x]/(x^2)

であり、構造層が違う。Spec⁡A\operatorname{Spec}A のただ1つの点での茎は AA で、その元 xx は値が0なのに0ではない。

証明
  1. 第2回で見たとおり、Spec⁡A\operatorname{Spec}A は1点 P=(x)P=(x) からなる。開集合は ∅\varnothing と {P}\{P\} だけ。
  2. O({P})=AP\mathcal{O}(\{P\})=A_P で、茎も OP=AP\mathcal{O}_P=A_P。

    {P}\{P\} の上の切断は、1つの元 s(P)∈APs(P)\in A_P を選ぶことにほかならない。APA_P の元はもともと分数 a/fa/f(f∉Pf\notin P)なので、局所的に分数で書ける条件は自動的にみたされる。PP を含む開集合は {P}\{P\} だけなので、茎は O({P})\mathcal{O}(\{P\}) そのもの。

  3. AP=AA_P=A である。PP に入らない元はすべて AA の単元なので、分母を払える。
    1. PP に入らない元は a+bxa+bx(a≠0a\neq0)で、逆元は a−1−a−2bxa^{-1}-a^{-2}bx。実際、(a+bx)(a−1−a−2bx)=1−a−2b2x2=1(a+bx)(a^{-1}-a^{-2}bx)=1-a^{-2}b^2x^2=1。
    2. よって a/f=af−1/1a/f=af^{-1}/1 となり、A→APA\to A_P、a↦a/1a\mapsto a/1 は全射。
    3. 単射でもある。a/1=0a/1=0 なら、ある単元 uu で ua=0ua=0 なので a=0a=0。
  4. 同じ議論で O(Spec⁡k)=k\mathcal{O}(\operatorname{Spec}k)=k(kk の0でない元はすべて単元)。
  5. 点 PP での xx の値は、剰余体 κ(P)=A/P≅k\kappa(P)=A/P\cong k での像で、x∈Px\in P なので0。しかし AA の中で x≠0x\neq0。

k[x]/(x2)k[x]/(x^2) での計算は、x2=0x^2=0 として多項式の計算をするだけです。

(a+bx)(c+dx)=ac+(ad+bc) x,(a+bx)−1=a−1−a−2b x(a≠0)(a+bx)(c+dx)=ac+(ad+bc)\,x,\qquad (a+bx)^{-1}=a^{-1}-a^{-2}b\,x\quad(a\neq0)

例えば (1+x)−1=1−x(1+x)^{-1}=1-x です。kk の標数が2でなければ (2+3x)−1=12−34x(2+3x)^{-1}=\tfrac12-\tfrac34x です。実際、(2+3x)(12−34x)=1−32x+32x−94x2=1(2+3x)\bigl(\tfrac12-\tfrac34x\bigr)=1-\tfrac32x+\tfrac32x-\tfrac94x^2=1 です。

値 aa が0でない元は単元で、値が0の元 bxbx は2乗すると0になります。点での値をとる写像 a+bx↦aa+bx\mapsto a の核 (x)(x) が、ただ1つの極大イデアルです。

直線 Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x] の上の多項式 ff を、原点の1点 Spec⁡k=Spec⁡k[x]/(x)\operatorname{Spec}k=\operatorname{Spec}k[x]/(x) に制限すると、ff を xx で割った余り、つまり値 f(0)f(0) だけが残ります。重なった点 Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) に制限すると、x2x^2 で割った余り

f mod x2=f(0)+f′(0) xf\bmod x^2=f(0)+f'(0)\,x

が残ります。値に加えて、原点での傾き f′(0)f'(0) まで覚えているわけです。ここで f′f' は多項式の形式的な微分で、どんな体でも意味をもちます。

2つの制限を並べると、次のようになります。

k[x]⟶k[x]/(x2)⟶k[x]/(x)=kf⟼f(0)+f′(0) x⟼f(0)x2+3x+2⟼2+3x⟼2(x−1)3⟼−1+3x⟼−1\begin{array}{ccccc} k[x] & \longrightarrow & k[x]/(x^2) & \longrightarrow & k[x]/(x)=k\\[2pt] f & \longmapsto & f(0)+f'(0)\,x & \longmapsto & f(0)\\[2pt] x^2+3x+2 & \longmapsto & 2+3x & \longmapsto & 2\\[2pt] (x-1)^3 & \longmapsto & -1+3x & \longmapsto & -1 \end{array}

右の矢印は xx の係数を忘れる写像です。重なった点からさらに重なりを取り去って Spec⁡k\operatorname{Spec}k に制限すると、傾きの情報が消えます。

左の矢印は環準同型なので、積は積に移ります。x2=0x^2=0 の掛け算をすると、積の微分の公式が出てきます。

(f(0)+f′(0)x)(g(0)+g′(0)x)=f(0)g(0)+(f(0)g′(0)+f′(0)g(0))x=(fg)(0)+(fg)′(0) x\bigl(f(0)+f'(0)x\bigr)\bigl(g(0)+g'(0)x\bigr)=f(0)g(0)+\bigl(f(0)g'(0)+f'(0)g(0)\bigr)x=(fg)(0)+(fg)'(0)\,x

上の例で確かめると、(2+3x)(−1+3x)=−2+(6−3)x=−2+3x(2+3x)(-1+3x)=-2+(6-3)x=-2+3x です。(x2+3x+2)(x−1)3(x^2+3x+2)(x-1)^3 を展開すると、定数項は −2-2、xx の係数は 2⋅3+3⋅(−1)=32\cdot3+3\cdot(-1)=3 で、一致します。

同じように、k[x]/(x3)k[x]/(x^3) に制限すると、ff の x2x^2 の係数までが残ります。標数0なら、これは2次までのテイラー展開 f(0)+f′(0)x+12f′′(0)x2f(0)+f'(0)x+\tfrac12f''(0)x^2 です。重なりを深くするほど、点は高い階数の微分まで覚えます。

ドラッグで回せます

横軸が直線 Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x] の実数の点、縦軸が値です。関数 xx(オレンジ)と x2x^2(緑)は、原点での値がどちらも0です。原点を1点 Spec⁡k\operatorname{Spec}k とみると、その上の関数は値だけで、2つは区別できません。

重なった点 Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) の上では、関数は a+bxa+bx の形の元です。原点に立てた青い板が、aa(値、上向き)と bb(xx の係数、奥行き)の平面 k[x]/(x2)k[x]/(x^2) です。xx は点 0+1⋅x0+1\cdot x、x2x^2 は点 0+0⋅x0+0\cdot x に移ります。「正面」から見ると奥行き bb が消えて、2点は値の軸の上で重なります。「真横」から見ると2点が分かれます。

x+x2x+x^2(紫)を x2x^2 で割った余りは xx なので、xx と同じ点に移ります。原点での接線(黒の破線 a=xa=x)が同じ関数は、k[x]/(x2)k[x]/(x^2) の上では同じ元です。

図4具体例直線の上の関数を、原点の1点 Spec⁡k\operatorname{Spec}k と、重なった点 Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) に制限した図です(k=Rk=\mathbb{R} として実数の点を描いています)。横軸が直線、上向きが値 aa です。原点に立てた青い板は k[x]/(x2)k[x]/(x^2) の元 a+bxa+bx の全体で、奥行きが xx の係数 bb を表します。関数 ff は板の上の点 (b,a)=(f′(0),f(0))(b,a)=(f'(0),f(0)) に移ります。「正面」から見ると奥行きが消え、値 aa しか見えません。これが Spec⁡k\operatorname{Spec}k の見え方です。「真横」から見ると板全体が見え、値が同じでも xx と x2x^2 が別の点になることが分かります。

図4の「正面」と「真横」の違いが、そのまま Spec⁡k\operatorname{Spec}k と Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) の違いです。空間の点は同じ1点ですが、その上の関数の環が「値の直線」か「値と傾きの平面」かで違います。

第2回で「2点がぶつかった後の1点が、2点分の重さを覚えている」と書いたのは、この平面の2次元のことです。

この例では空間が1点なので、切断と芽は同じものです。点が2つ以上あって、切断が芽で決まるのに値では決まらない例を見ます。

例23 Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}

Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} は2点 (2)(2)、(3)(3) からなり、各点は閉集合でも開集合でもある。茎は

O(2)≅Z/4Z,O(3)≅Z/3Z\mathcal{O}_{(2)}\cong\mathbb{Z}/4\mathbb{Z},\qquad \mathcal{O}_{(3)}\cong\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}

で、n∈Z/12Zn\in\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の芽はそれぞれ n mod 4n\bmod 4、n mod 3n\bmod 3 である。とくに n=6n=6 は、どちらの点でも値が0だが、点 (2)(2) での芽が 2≠02\neq0 なので、0ではない。

証明
  1. 対応定理から、Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の素イデアルは、12を含む Z\mathbb{Z} の素イデアル (2)(2)、(3)(3) に対応する。どちらも極大なので閉点で、互いに相手の補集合なので開集合でもある。
  2. 定理14(1) から O(2)≅(Z/12Z)(2)\mathcal{O}_{(2)}\cong(\mathbb{Z}/12\mathbb{Z})_{(2)}。n/s↦ns−1 mod 4n/s\mapsto ns^{-1}\bmod 4 がこれと Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} の同型を与える。
    1. 分母 ss は (2)(2) に入らない、つまり奇数なので、s mod 4s\bmod4 は Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} の単元。写像は矛盾なく決まる。

      n/s=m/tn/s=m/t なら、奇数 uu で u(nt−ms)≡0(mod12)u(nt-ms)\equiv0\pmod{12}。4を法として uu は単元なので nt≡ms(mod4)nt\equiv ms\pmod 4、つまり ns−1≡mt−1(mod4)ns^{-1}\equiv mt^{-1}\pmod 4。

    2. 全射:n/1n/1 の行き先は n mod 4n\bmod4 で、これは Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} のすべての元をとる。
    3. 単射:ns−1≡0(mod4)ns^{-1}\equiv0\pmod4 なら n≡0(mod4)n\equiv0\pmod 4 なので 3n≡0(mod12)3n\equiv0\pmod{12}。3∉(2)3\notin(2) なので、局所化の中で n/s=0n/s=0。
  3. 同じように、n/s↦ns−1 mod 3n/s\mapsto ns^{-1}\bmod3 が O(3)≅Z/3Z\mathcal{O}_{(3)}\cong\mathbb{Z}/3\mathbb{Z} を与える(単射の確認には 4∉(3)4\notin(3) と 4⋅3=124\cdot3=12 を使う)。
  4. n=6n=6 の芽は、点 (2)(2) で 6 mod 4=2≠06\bmod4=2\neq0、点 (3)(3) で 6 mod 3=06\bmod3=0。値は 6 mod 2=06\bmod2=0、6 mod 3=06\bmod3=0。

12個の元をすべて表にすると、次のようになります。値だけを見ると 66 と 00 は区別できませんが、芽を見ると点 (2)(2) で違います。命題9のとおり、切断は芽で決まります。

nn(2)(2) での値(F2\mathbb{F}_2)(2)(2) での芽(Z/4\mathbb{Z}/4)(3)(3) での値・芽(F3\mathbb{F}_3)
00000000
11111111
22002222
33113300
44000011
55111122
66002200
77113311
88000022
99111100
1010002211
1111113322

値の組 (n mod 2, n mod 3)(n\bmod2,\ n\bmod3) は6通りしかないので、どの値の組にも nn が2つずつ対応します(00 と 66、11 と 77、22 と 88 など)。nn と n+6n+6 は、値がどちらの点でも同じで、点 (2)(2) での芽が 22 だけずれています。

芽の組 (n mod 4, n mod 3)(n\bmod4,\ n\bmod3) のほうは、12通りがすべて1回ずつ現れます。芽の組を見れば nn が決まります。

点 (3)(3) の茎 Z/3Z\mathbb{Z}/3\mathbb{Z} は体なので、芽と値は同じものです。点 (2)(2) の茎 Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} には0でないべき零元 22 があり、芽が値より多くを覚えています。点 (2)(2) は、Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) と同じ「重なった点」です。

ただし、Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} と F2[x]/(x2)\mathbb{F}_2[x]/(x^2) は同型ではありません。どちらも4個の元からなる局所環で、剰余体が F2\mathbb{F}_2、0でないべき零元(22 と xx)をもちます。しかし Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} では 1+1=2≠01+1=2\neq0、F2[x]/(x2)\mathbb{F}_2[x]/(x^2) では 1+1=01+1=0 です。

同じ形の重なった点は、Spec⁡Z/9Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/9\mathbb{Z} にもあります。ただ1つの点 (3)(3) での茎は Z/9Z\mathbb{Z}/9\mathbb{Z} で、その元 33 は値が0なのに0ではありません(32=9≡03^2=9\equiv0)。

2つの点はどちらも開集合なので、層の条件から、全体の切断は「各点の切断を自由に選んだ組」と1対1に対応します。これは Z/12Z≅Z/4Z×Z/3Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/3\mathbb{Z} という中国剰余定理そのものです。

X=Spec⁡Z/12ZX=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} とおき、式で書きます。33 を含まない素イデアルは (2)(2) だけなので D(3)={(2)}D(3)=\{(2)\}、同じように D(2)={(3)}D(2)=\{(3)\} です。

O(X)=Z/12Z→ α O(D(3))×O(D(2))≅Z/4Z×Z/3Zn⟼(n mod 4, n mod 3)\begin{gathered} \mathcal{O}(X)=\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}\xrightarrow{\ \alpha\ }\mathcal{O}(D(3))\times\mathcal{O}(D(2))\cong\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}\\[2pt] n\longmapsto(n\bmod4,\ n\bmod3) \end{gathered}

1点からなる開集合 {(2)}\{(2)\} は点 (2)(2) の最も小さい近傍なので、O(D(3))\mathcal{O}(D(3)) は茎 O(2)≅Z/4Z\mathcal{O}_{(2)}\cong\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} と同じものです。定理14(2) から O(D(3))≅(Z/12Z)3\mathcal{O}(D(3))\cong(\mathbb{Z}/12\mathbb{Z})_3 でもあり、例11で見たとおり、分母に3を許すと4が0になります。

層の条件の写像の列で見ると、重なりは D(3)∩D(2)=D(6)=∅D(3)\cap D(2)=D(6)=\varnothing で、O(∅)=0\mathcal{O}(\varnothing)=0 です。よって β1(t)=β2(t)\beta_1(t)=\beta_2(t) はどの tt でも成り立ち、α\alpha は積全体への全単射になります。

逆向きの写像は、次の2つの元を使って書けます。

(a,b)⟼9a+4b mod 12,9≡1, 4≡0(mod4),9≡0, 4≡1(mod3)(a,b)\longmapsto 9a+4b\bmod12,\qquad 9\equiv1,\ 4\equiv0\pmod4,\qquad 9\equiv0,\ 4\equiv1\pmod3

99 は点 (2)(2) で芽が1、点 (3)(3) で芽が0の切断で、44 はその逆です。Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の中で 92=81≡99^2=81\equiv9、42=16≡44^2=16\equiv4、9⋅4=36≡09\cdot4=36\equiv0、9+4=13≡19+4=13\equiv1 が成り立ちます。

例えば (2,0)↦18≡6(2,0)\mapsto18\equiv6、(3,1)↦27+4=31≡7(3,1)\mapsto27+4=31\equiv7 で、表の 66 と 77 の行に一致します。

まとめ:空間・関数・茎の表

この記事の例を表にまとめます。「値」は第2回の剰余体 κ(P)\kappa(P) で、茎の元に値を対応させると、茎の極大イデアルが0に送られます。

空間全体の関数閉点での茎生成点での茎閉点での値
Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}Z\mathbb{Z}Z(p)\mathbb{Z}_{(p)}Q\mathbb{Q}Fp\mathbb{F}_p
Spec⁡k[x]\operatorname{Spec}k[x]k[x]k[x]k[x](x−a)k[x]_{(x-a)}k(x)k(x)kk
Spec⁡k\operatorname{Spec}kkkkk(閉点と同じ)kk
Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)k[x]/(x2)k[x]/(x^2)k[x]/(x2)k[x]/(x^2)(閉点と同じ)kk
Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}、Z/3Z\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}(なし)F2\mathbb{F}_2、F3\mathbb{F}_3

Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec}k[x]/(x^2) と Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} のように、茎が体でない閉点では、芽が値より多くを覚えています。

切断・芽・値の関係は、次の写像の列にまとめられます。

O(U)→ s ↦ sP OP≅AP→ a/f ↦ a(P)/f(P) κ(P)(P∈U)\mathcal{O}(U)\xrightarrow{\ s\,\mapsto\,s_P\ }\mathcal{O}_P\cong A_P\xrightarrow{\ a/f\,\mapsto\,a(P)/f(P)\ }\kappa(P)\qquad(P\in U)

左の矢印では、PP から離れたところの情報が消えます。右の矢印では、APA_P の極大イデアルの元が0になります。茎が体なら極大イデアルは0なので、右の矢印は同型で、芽と値は同じものです。

空間 Spec⁡A\operatorname{Spec}A と構造層 O\mathcal{O} を組にすると、全体の関数として環 AA が戻ってきます(定理14(3))。この組を AA のスペクトラムと呼びます[1, p.96–97]。

次回:貼り合わせて射影直線を作る

層の条件 (4) は、局所的なものを貼り合わせて全体を作る道具でした。同じ考え方で、空間そのものも貼り合わせられます[1, 例2.3.5, p.103; 1, 演習2.12, p.109]。

次回は、2本の直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] と Spec⁡k[1/t]\operatorname{Spec}k[1/t] を、共通部分 Spec⁡k[t,1/t]\operatorname{Spec}k[t,1/t] で貼り合わせて、射影直線を作ります。

射影直線の上の関数は、両方の上で定義された関数なので、k[t]∩k[1/t]=kk[t]\cap k[1/t]=k の定数だけになります。全体の関数が定数だけなので、この空間はどの環 AA の Spec⁡A\operatorname{Spec}A とも違います(Spec⁡A\operatorname{Spec}A なら全体の関数は AA で、A=kA=k なら1点になってしまうため)。

貼り合わせ方を変えると、原点が2つある直線のような奇妙な空間もできます[1, 例2.3.6, p.104]。

参考文献

  1. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.
  2. M. F. アティヤ, I. G. マクドナルド(新妻弘 訳), 『可換代数入門』, 共立出版, 2006.