図で読む代数幾何 第4回

貼り合わせて作る空間:射影直線

どの点のまわりも Spec の形をした空間としてスキームを定義し、2本の直線を貼り合わせて射影直線を作ります。射影直線の上の関数は定数だけで、どの環の Spec とも違う空間になることを示し、原点が2つある直線とも比べます。複素数の射影直線は回せるリーマン球面で確かめます。

  • 代数幾何
  • スキーム
  • 射影直線
  • リーマン球面

この記事の要点

スキーム
位相空間と、その上の関数の層の組を環付き空間と呼びます。どの点のまわりも Spec⁡A\operatorname{Spec}A と同じ形をしている環付き空間が、スキームです。
貼り合わせ
2つのスキームを、同じ形の開集合どうしで貼り合わせると、新しいスキームができます。層の貼り合わせと同じ考え方です。
射影直線
2本の直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] と Spec⁡k[s]\operatorname{Spec}k[s] を s=1/ts=1/t で貼り合わせたものが射影直線 P1\mathbb{P}^1 です。直線に「無限遠点」を1つ足した空間で、複素数なら球面になります。
Spec では作れない空間
P1\mathbb{P}^1 の上の関数は定数だけなので、P1\mathbb{P}^1 はどの環の Spec とも同型ではありません。貼り合わせ方を変えると、原点が2つある直線のような空間もできます。
  • 証明は、ステップの流れだけを短く書いています。「詳しく」の付いた行をクリックすると、そのステップの詳しい説明が開きます。説明の中にも開ける行があります。
  • 定義・命題・定理には、記事全体で通し番号を振っています。
  • もう少し詳しくは補足、専門的な話は先の回につながる話題です。どちらも開かずに読み進められます。
  • 各ブロックの「AIに質問」を押すと、その部分の内容を入れた質問文で、お使いのAIを開けます。

前回の宿題

第3回では、Spec⁡A\operatorname{Spec}A に構造層 O\mathcal{O} を載せ、全体の上の関数がもとの環に戻ること(O(Spec⁡A)≅A\mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)\cong A)を見ました。つまり Spec⁡A\operatorname{Spec}A は、環 AA を知っていれば完全に決まる空間です。

しかし幾何で出てくる空間は、1つの環から作れるものばかりではありません。例えば、直線に「無限遠点」を1つ足した射影直線は、2本の直線を貼り合わせて作ります。層の条件 (4) で局所的な関数を貼り合わせたのと同じように、局所的な空間を貼り合わせて全体を作るわけです。

この記事では、まず「どの点のまわりも Spec⁡A\operatorname{Spec}A の形をした空間」としてスキームを定義します。次に、2つのスキームを貼り合わせる方法を説明し、射影直線を作ります。最後に、射影直線の上の関数が定数だけであることを示し、射影直線がどの環の Spec とも違う空間であることを確かめます。

環付き空間とスキーム

環はすべて単位元をもつ可換環とします。まず、空間と関数の層を組にしたものに名前を付けます。

定義1 環付き空間 [1, §II.2 定義, p.99]

位相空間 XX と、XX 上の環の層 OX\mathcal{O}_X の組 (X,OX)(X,\mathcal{O}_X) を環付き空間と呼ぶ。各点 P∈XP\in X で茎 OX,P\mathcal{O}_{X,P} が局所環であるとき、局所環付き空間と呼ぶ。

OX\mathcal{O}_X は「XX の上の関数」の層だと考えてください。連続関数の層をもつ実数直線も環付き空間です。

2つの環付き空間が「同じ」であることは、次のように定めます。

定義2 同型

環付き空間 (X,OX)(X,\mathcal{O}_X) から (Y,OY)(Y,\mathcal{O}_Y) への同型とは、同相写像 f ⁣:X→Yf\colon X\to Y と、YY の各開集合 WW に対する環の同型

fW# ⁣:OY(W)→OX(f−1(W))f^\#_W\colon\mathcal{O}_Y(W)\to\mathcal{O}_X(f^{-1}(W))

の組で、制限と両立するもの(W′⊆WW'\subseteq W なら fW#(s)∣f−1(W′)=fW′#(s∣W′)f^\#_W(s)|_{f^{-1}(W')}=f^\#_{W'}(s|_{W'}))をいう。

空間を同相写像で重ね、その上の関数の環も同型で重ねるということです。環の写像の向きは空間の写像と逆で、YY の上の関数を ff で引き戻して XX の上の関数にします。

「制限と両立する」とは、開集合 W′⊆WW'\subseteq W について次の図式が可換であることです。右上を回っても左下を回っても、同じ元に行き着きます。

OY(W)→fW#OX(f−1(W))ρWW′↓↓ρOY(W′)→fW′#OX(f−1(W′))\begin{CD} \mathcal{O}_Y(W) @>{f^\#_W}>> \mathcal{O}_X(f^{-1}(W)) \\ @V{\rho_{WW'}}VV @VV{\rho}V \\ \mathcal{O}_Y(W') @>>{f^\#_{W'}}> \mathcal{O}_X(f^{-1}(W')) \end{CD}

縦の矢印 ρ\rho は制限写像です。元 s∈OY(W)s\in\mathcal{O}_Y(W) で書けば、上の定義の式 fW#(s)∣f−1(W′)=fW′#(s∣W′)f^\#_W(s)|_{f^{-1}(W')}=f^\#_{W'}(s|_{W'}) になります。

ハーツホーンは一般の射を順像の層を使って定義していますが、同型(逆向きの射をもつ射)に限ると、この定義と同じことになります[1, p.99–100]。

同型は、茎どうしの同型も引き起こします。芽を次のように引き戻せばよいからです。

OY,f(P)⟶OX,P,(W,s)⟼(f−1(W), fW#(s))\mathcal{O}_{Y,f(P)}\longrightarrow\mathcal{O}_{X,P},\qquad (W,s)\longmapsto\bigl(f^{-1}(W),\,f^\#_W(s)\bigr)

f(P)∈Wf(P)\in W なら P∈f−1(W)P\in f^{-1}(W) なので、右辺は PP での芽です。上の可換図式から、同じ芽を表す (W,s)(W,s) と (W′,s∣W′)(W',s|_{W'}) は同じ芽に移るので、この写像は矛盾なく決まります。

命題3 [1, 命題2.3(a), p.100]

環 AA について、(Spec⁡A,O)(\operatorname{Spec}A,\mathcal{O}) は局所環付き空間である。

証明
  1. 第3回の定理14(1) から、点 PP での茎は局所化 APA_P と同型で、APA_P は局所環である。

例4 茎の極大イデアル

(1) 実数直線 R\mathbb{R} と連続関数の層 CC の組は、局所環付き空間である。点 aa での茎 CaC_a の元は、aa の近くで定義された連続関数 gg の芽 [g][g] である。[g][g] が単元であることと g(a)≠0g(a)\neq0 は同値である(g(a)≠0g(a)\neq0 なら、連続性から aa の近くで g≠0g\neq0 で、そこで 1/g1/g が連続関数になる)。

よって単元でない元の全体 Ma={ [g]∣g(a)=0 }M_a=\{\,[g]\mid g(a)=0\,\} はイデアルで、CaC_a のただ1つの極大イデアルである。

(2) kk を体、a∈ka\in k とする。Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] の点 (t−a)(t-a) での茎は

k[t](t−a)={ p(t)q(t)∣q(a)≠0 }k[t]_{(t-a)}=\Bigl\{\,\frac{p(t)}{q(t)}\Bigm|q(a)\neq0\,\Bigr\}

で、極大イデアルは p(a)=0p(a)=0 となる元 p/qp/q の全体である。例えば a=0a=0 のとき、1/(t−1)1/(t-1) は単元(逆元 t−1t-1)で、t/(t−1)t/(t-1) は極大イデアルに入る。

どちらの例でも、茎の元が逆数をもつのは、その点での値が0でないときです。そのため単元でない元の全体は「その点で値が0になる関数」の全体になり、これがただ1つの極大イデアルです。

定義5 スキーム [1, §II.2 定義, p.101]

ある環 AA の (Spec⁡A,O)(\operatorname{Spec}A,\mathcal{O}) と同型な局所環付き空間を、アフィンスキームと呼ぶ。局所環付き空間 (X,OX)(X,\mathcal{O}_X) がスキームであるとは、各点が開近傍 UU をもち、(U,OX∣U)(U,\mathcal{O}_X|_U) がアフィンスキームになることをいう。

OX∣U\mathcal{O}_X|_U は、OX\mathcal{O}_X を UU に含まれる開集合だけに制限した層です。

環の Spec はそのままアフィンスキームなので、Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t]、Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z}、Spec⁡k\operatorname{Spec}k はどれもアフィンスキームです。Spec⁡k\operatorname{Spec}k は1点 (0)(0) だけの空間で、その点の茎は k(0)=kk_{(0)}=k です。

スキームは「どの点のまわりも、ある環の Spec と同じ形をしている空間」です。多様体が「どの点のまわりも Rn\mathbb{R}^n と同じ形をしている空間」であるのと同じ考え方で、各点のまわりで手本にする形が Rn\mathbb{R}^n から Spec⁡A\operatorname{Spec}A に変わっています。

開集合 D(f)D(f) も Spec の形をしている

貼り合わせでは、スキームの開集合どうしを重ねます。その前に、Spec⁡A\operatorname{Spec}A の基本的な開集合 D(f)D(f) が、それ自身ある環の Spec と同型であることを確かめておきます。

命題6 [1, 演習2.1, p.108]

AA を環、f∈Af\in A とする。局所環付き空間 (D(f),O∣D(f))(D(f),\mathcal{O}|_{D(f)}) は Spec⁡Af\operatorname{Spec}A_f と同型である。点の対応は、AfA_f の素イデアル QQ を Q∩A={ a∈A∣a/1∈Q }Q\cap A=\{\,a\in A\mid a/1\in Q\,\} に送るものである。

一般の環での証明はハーツホーンの演習問題です。ここでは、第3回と同じく AA が整域で f≠0f\neq0 の場合に証明します。

証明
  1. 点の対応:Q↦Q∩AQ\mapsto Q\cap A は、Spec⁡Af\operatorname{Spec}A_f から「ff を含まない素イデアル全体」=D(f)=D(f) への全単射で、逆は P↦PAfP\mapsto PA_f [2, 命題3.11 iv), p.63]。
  2. この全単射は同相写像である。閉集合 V(S)∩D(f)V(S)\cap D(f)(S⊆AS\subseteq A)が、Spec⁡Af\operatorname{Spec}A_f の閉集合 V(SAf)V(SA_f) にちょうど対応する。
    1. Q⊇SAf  ⟺  Q∩A⊇SQ\supseteq SA_f\iff Q\cap A\supseteq S。SS の元 aa について a/1∈Q  ⟺  a∈Q∩Aa/1\in Q\iff a\in Q\cap A だから。
    2. Spec⁡Af\operatorname{Spec}A_f の閉集合はすべてこの形。AfA_f の元 a/fna/f^n は a/1a/1 と単元 1/fn1/f^n の積なので、T⊆AfT\subseteq A_f について V(T)=V(SAf)V(T)=V(S A_f)(SS は分子 aa の集合)となる。
  3. 層の対応:両辺の切断はどちらも K=Frac⁡AK=\operatorname{Frac}A の部分環で、QQ と P=Q∩AP=Q\cap A について (Af)Q=AP(A_f)_Q=A_P(KK の中で)が成り立つ。

    (Af)Q(A_f)_Q の元は (a/fn)/(b/fm)(a/f^n)/(b/f^m)(b/fm∉Qb/f^m\notin Q、つまり b∉Pb\notin P)で、これは afm/(bfn)af^m/(bf^n) に等しい。f∉Pf\notin P、b∉Pb\notin P なので bfn∉Pbf^n\notin P で、この元は APA_P に入る。

    逆に a/s∈APa/s\in A_P(s∉Ps\notin P)は (a/1)/(s/1)(a/1)/(s/1) で、s/1∉Qs/1\notin Q。

  4. 第3回の命題15から、空でない開集合 WW の上の切断は ⋂Q∈W(Af)Q=⋂P∈WAP\bigcap_{Q\in W}(A_f)_Q=\bigcap_{P\in W}A_P で、両辺で同じ KK の部分環になる。恒等写像が制限と両立する同型を与える。

例えば Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] から原点 (t)(t) を除いた開集合 D(t)D(t) は、Spec⁡k[t,1/t]\operatorname{Spec}k[t,1/t] と同型です。k[t,1/t]=k[t]tk[t,1/t]=k[t]_t は、tt の負のべきも許した多項式(ローラン多項式)の環です。

k[t,1/t]={ ∑n=−NNcntn∣N≥0, cn∈k }k[t,1/t]=\Bigl\{\,\sum_{n=-N}^{N}c_nt^n\Bigm|N\geq0,\ c_n\in k\,\Bigr\}

例えば 2t−2+5+t3=(2+5t2+t5)/t22t^{-2}+5+t^3=(2+5t^2+t^5)/t^2 です。分母が tt のべきだけの分数だと考えてもかまいません。

例7 D(t)⊆Spec⁡k[t]D(t)\subseteq\operatorname{Spec}k[t] と D(6)⊆Spec⁡ZD(6)\subseteq\operatorname{Spec}\mathbb{Z}

(1) kk を代数閉体とする。k[t,1/t]k[t,1/t] の素イデアルは (0)(0) と (t−a)k[t,1/t](t-a)k[t,1/t](a≠0a\neq0)で、命題6の対応で次のように移る。

(t−a)k[t,1/t] ⟼ (t−a)k[t,1/t]∩k[t]=(t−a)(a≠0).(t-a)k[t,1/t]\ \longmapsto\ (t-a)k[t,1/t]\cap k[t]=(t-a)\qquad(a\neq0).

原点 (t)(t) に当たるものはない。tt は k[t,1/t]k[t,1/t] の単元なので (t)k[t,1/t]=k[t,1/t](t)k[t,1/t]=k[t,1/t] となり、素イデアルにならないからである。

(2) A=ZA=\mathbb{Z}、f=6f=6 とする。D(6)D(6) は 6 を含まない素イデアル、つまり (2),(3)(2),(3) 以外の点 (0),(5),(7),(11),…(0),(5),(7),(11),\dots からなり、Spec⁡Z[1/6]\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[1/6] と同型である。例えば

(5)Z[1/6]∩Z=5Z,(2)Z[1/6]=Z[1/6].(5)\mathbb{Z}[1/6]\cap\mathbb{Z}=5\mathbb{Z},\qquad (2)\mathbb{Z}[1/6]=\mathbb{Z}[1/6].

D(6)D(6) の上の関数 1/61/6 の値は、点 (5)(5) では F5\mathbb{F}_5 の中で 6−1=16^{-1}=1、点 (7)(7) では F7\mathbb{F}_7 の中で 6−1=66^{-1}=6(6⋅6=36≡16\cdot6=36\equiv1)である。

証明
  1. (1) の交わりを示す。⊇\supseteq は明らか。逆に多項式 pp が (t−a)q/tn(t-a)q/t^n(q∈k[t]q\in k[t])と書けたとすると、tnp=(t−a)qt^np=(t-a)q となる。

    a≠0a\neq0 なので t−at-a と tnt^n は共通の因子をもたない。よって t−at-a は pp を割り切り、p∈(t−a)p\in(t-a) である。

  2. (2) の1つめの式を示す。5a/6n5a/6^n(a∈Za\in\mathbb{Z})が整数なら、6n6^n は 5a5a を割り切る。55 と 66 は互いに素なので 6n6^n は aa を割り切り、5a/6n∈5Z5a/6^n\in5\mathbb{Z} である。
  3. (2) の2つめの式は、2⋅(3/6)=12\cdot(3/6)=1 から 22 が Z[1/6]\mathbb{Z}[1/6] の単元であることによる。

貼り合わせ

2つの空間の一部を同型で重ねて、1つの空間を作ります。

定義8 貼り合わせ [1, 例2.3.5, p.103; 1, 演習2.12, p.109]

X1,X2X_1,X_2 を環付き空間、U1⊆X1U_1\subseteq X_1、U2⊆X2U_2\subseteq X_2 を開集合とし、φ ⁣:(U1,OX1∣U1)→(U2,OX2∣U2)\varphi\colon(U_1,\mathcal{O}_{X_1}|_{U_1})\to(U_2,\mathcal{O}_{X_2}|_{U_2}) を同型とする。

  • 集合 XX は、X1X_1 と X2X_2 の交わらない和で、x∈U1x\in U_1 と φ(x)∈U2\varphi(x)\in U_2 を同じ点とみなしたもの。X1,X2X_1,X_2 は XX の部分集合とみなす。
  • V⊆XV\subseteq X が開集合であるのは、V∩X1V\cap X_1 と V∩X2V\cap X_2 がそれぞれ開集合であるとき。
  • XX の開集合 VV について、OX(V)\mathcal{O}_X(V) は、組 (s1,s2)(s_1,s_2)(si∈OXi(V∩Xi)s_i\in\mathcal{O}_{X_i}(V\cap X_i))で、重なりの上で φ#(s2∣V∩U2)=s1∣V∩U1\varphi^\#(s_2|_{V\cap U_2})=s_1|_{V\cap U_1} となるものの全体。

(X,OX)(X,\mathcal{O}_X) を、X1X_1 と X2X_2 を φ\varphi で貼り合わせた環付き空間と呼ぶ。

貼り合わせに使うデータは、2つの空間と、その開集合どうしの同型です。

X1 ⊇ U1 → ≅  φ  U2 ⊆ X2X_1\ \supseteq\ U_1\ \xrightarrow[\ \cong\ ]{\ \varphi\ }\ U_2\ \subseteq\ X_2

関数は逆向きに移ります。φ#\varphi^\# は U2U_2 側の関数を U1U_1 側の関数に引き戻します。

OX(V)\mathcal{O}_X(V) の元は「X1X_1 側の関数と X2X_2 側の関数の組で、重なりの上で φ\varphi を通して一致するもの」です。層の条件 (4) で、重なりで一致する切断を貼り合わせたのと同じ形をしています。

図式で書くと、OX(V)\mathcal{O}_X(V) は次の四角形の左上に入る環です。ρ\rho は制限写像、左上から出る矢印は組 (s1,s2)(s_1,s_2) を s1s_1、s2s_2 に送る写像です。

OX(V)→OX2(V∩X2)↓↓φ#∘ρOX1(V∩X1)→ρOX1(V∩U1)\begin{CD} \mathcal{O}_X(V) @>>> \mathcal{O}_{X_2}(V\cap X_2) \\ @VVV @VV{\varphi^\#\circ\rho}V \\ \mathcal{O}_{X_1}(V\cap X_1) @>>{\rho}> \mathcal{O}_{X_1}(V\cap U_1) \end{CD}

OX(V)\mathcal{O}_X(V) は、左下の環の元 s1s_1 と右上の環の元 s2s_2 の組のうち、右下の環で行き先が一致するものの全体です。

XX の中で U1U_1 と U2U_2 は同じ集合なので、V∩U1V\cap U_1 と V∩U2V\cap U_2 も同じ集合です。φ#\varphi^\# は OX2(V∩U2)\mathcal{O}_{X_2}(V\cap U_2) を OX1(V∩U1)\mathcal{O}_{X_1}(V\cap U_1) に移します。

X1X_1 と X2X_2 は XX の開集合になり、OX\mathcal{O}_X をそこに制限すると、もとの OX1\mathcal{O}_{X_1}、OX2\mathcal{O}_{X_2} に戻ります。とくに X1,X2X_1,X_2 がスキームなら、XX のどの点にもアフィンスキームの近傍があるので、XX もスキームです[1, p.103–104]。

φ\varphi を作るには、環の同型があれば十分です。環の同型 α ⁣:B→A\alpha\colon B\to A は、Spec⁡A\operatorname{Spec}A から Spec⁡B\operatorname{Spec}B への同型(点では P↦α−1(P)P\mapsto\alpha^{-1}(P))を引き起こします[1, 命題2.3(b), p.100]。整域なら、α\alpha を商体の同型に延ばすと局所化 Bα−1(P)B_{\alpha^{-1}(P)} が APA_P にちょうど移るので、第3回の命題15から層の同型も分かります。

α ⁣:B→ ≅ A⇝Spec⁡A→ ≅ Spec⁡B,P⟼α−1(P)\alpha\colon B\xrightarrow{\ \cong\ }A\qquad\leadsto\qquad \operatorname{Spec}A\xrightarrow{\ \cong\ }\operatorname{Spec}B,\quad P\longmapsto\alpha^{-1}(P)

例9 直線の平行移動

kk を体とし、環の同型 α ⁣:k[u]→k[t]\alpha\colon k[u]\to k[t]、u↦t+1u\mapsto t+1 を考える。逆は t↦u−1t\mapsto u-1 である。α\alpha が引き起こす Spec⁡k[t]→Spec⁡k[u]\operatorname{Spec}k[t]\to\operatorname{Spec}k[u] は、点 aa を点 a+1a+1 に送る。

α−1((t−a))=(u−a−1)(α(u−a−1)=t−a)\alpha^{-1}\bigl((t-a)\bigr)=(u-a-1)\qquad\bigl(\alpha(u-a-1)=t-a\bigr)

関数は g(u)↦g(t+1)g(u)\mapsto g(t+1) と引き戻される。例えば g=u2g=u^2 なら α(g)=t2+2t+1\alpha(g)=t^2+2t+1 で、点 t=2t=2 での値 99 は、移った先の点 u=3u=3 での gg の値 32=93^2=9 に等しい。

同型で重ねた2つの空間では、同じ点に別の座標が付きます。この例では、tt の座標で 22 の点が、uu の座標では 33 です。次の節の射影直線では、同じように tt で aa の点が、ss では 1/a1/a になります。

射影直線

例10 射影直線 [1, 例2.5.1, p.106]

kk を体とする。X1=Spec⁡k[t]X_1=\operatorname{Spec}k[t]、X2=Spec⁡k[s]X_2=\operatorname{Spec}k[s] とし、開集合 U1=D(t)≅Spec⁡k[t,1/t]U_1=D(t)\cong\operatorname{Spec}k[t,1/t]、U2=D(s)≅Spec⁡k[s,1/s]U_2=D(s)\cong\operatorname{Spec}k[s,1/s] を、環の同型

k[s,1/s]→k[t,1/t],s↦1/tk[s,1/s]\to k[t,1/t],\qquad s\mapsto 1/t

が引き起こす同型 φ ⁣:U1→U2\varphi\colon U_1\to U_2 で貼り合わせる。こうしてできるスキームを、kk 上の射影直線と呼び、P1\mathbb{P}^1 と書く。

貼り合わせのデータを図式で書くと、次のようになります。

Spec⁡k[t] ⊇ D(t) → ≅  φ  D(s) ⊆ Spec⁡k[s]\operatorname{Spec}k[t]\ \supseteq\ D(t)\ \xrightarrow[\ \cong\ ]{\ \varphi\ }\ D(s)\ \subseteq\ \operatorname{Spec}k[s]

環の写像を α ⁣:k[s,1/s]→k[t,1/t]\alpha\colon k[s,1/s]\to k[t,1/t] と書くと、α\alpha は sns^n を t−nt^{-n} に移します。いくつかの元の行き先を並べます。

s⟼t−1s−1⟼ts2+3s⟼t−2+3t−11−s−2⟼1−t2∑ncnsn⟼∑ncnt−n\begin{array}{rcl} s & \longmapsto & t^{-1} \\ s^{-1} & \longmapsto & t \\ s^2+3s & \longmapsto & t^{-2}+3t^{-1} \\ 1-s^{-2} & \longmapsto & 1-t^{2} \\ \displaystyle\sum_n c_ns^n & \longmapsto & \displaystyle\sum_n c_nt^{-n} \end{array}

逆向きの写像 β ⁣:k[t,1/t]→k[s,1/s]\beta\colon k[t,1/t]\to k[s,1/s] は t↦1/st\mapsto1/s で決まります。β(α(s))=β(t−1)=s\beta(\alpha(s))=\beta(t^{-1})=s、α(β(t))=α(s−1)=t\alpha(\beta(t))=\alpha(s^{-1})=t なので、α\alpha と β\beta は互いに逆で、α\alpha は環の同型です。

ハーツホーンは射影空間を次数付き環の Proj として定義していて、P1\mathbb{P}^1 は Proj⁡k[x0,x1]\operatorname{Proj}k[x_0,x_1] です。上の貼り合わせで作ったものは、これと同型になります(t=x1/x0t=x_1/x_0、s=x0/x1s=x_0/x_1)。Proj は射影空間の回で扱います。

命題11 P1\mathbb{P}^1 の点

kk を代数閉体とする。P1\mathbb{P}^1 の点は、X1X_1 の閉点 (t−a)(t-a)(a∈ka\in k)、X2X_2 の閉点 (s)(s)、生成点 (0)(0) からなる。X2X_2 の閉点 (s−b)(s-b)(b≠0b\neq0)は、X1X_1 の閉点 (t−1/b)(t-1/b) と同じ点である。

証明
  1. P1=X1∪X2\mathbb{P}^1=X_1\cup X_2 で、X2X_2 のうち X1X_1 と重ならないのは X2∖U2=V(s)={(s)}X_2\setminus U_2=V(s)=\{(s)\} だけ。

    X2X_2 の点のうち U2=D(s)U_2=D(s) に入るものは、φ\varphi で U1⊆X1U_1\subseteq X_1 の点と同一視されている。ss を含む k[s]k[s] の素イデアルは (s)(s) だけ(第2回の例10)。

  2. X1X_1 の点は、第2回の例10のとおり (t−a)(t-a)(a∈ka\in k)と (0)(0)。
  3. (s−b)(s-b)(b≠0b\neq0)は、s↦1/ts\mapsto1/t で 1/t−b=(−b/t)(t−1/b)1/t-b=(-b/t)(t-1/b) に移り、−b/t-b/t は k[t,1/t]k[t,1/t] の単元なので、k[t,1/t]k[t,1/t] のイデアル (t−1/b)(t-1/b) に対応する。生成点 (0)(0) どうしも対応する。

    φ\varphi の点の対応は、k[t,1/t]k[t,1/t] の素イデアル QQ を、k[s,1/s]k[s,1/s] の素イデアル(QQ の逆像)に送るもの。Q=(t−1/b)Q=(t-1/b) の逆像は s−bs-b を含む極大イデアルなので (s−b)(s-b) で、Q=(0)Q=(0) の逆像は (0)(0)。

X1X_1 の閉点 (t−a)(t-a) を数 aa と書けば、P1\mathbb{P}^1 の閉点は kk の元と、それ以外のただ1つの点 (s)(s) からなります。tt の側から見ると (s)(s) は t=1/st=1/s が「無限大」になる点なので、無限遠点と呼び、∞\infty と書きます。

閉点には、比を使った名前の付け方もあります。0でない k2k^2 の元 (x0,x1)(x_0,x_1) を、0でない定数倍の違いを無視して [x0:x1][x_0:x_1] と書き、斉次座標と呼びます。

a∈ka\in k を [1:a][1:a]、∞\infty を [0:1][0:1] に対応させると、P1\mathbb{P}^1 の閉点は斉次座標 [x0:x1][x_0:x_1] の全体と1対1に対応します。x0≠0x_0\neq0 の点では t=x1/x0t=x_1/x_0、x1≠0x_1\neq0 の点では s=x0/x1s=x_0/x_1 で、両方が使える点では s=1/ts=1/t です。

[x0:x1]⟼{t=x1x0(x0≠0)s=x0x1(x1≠0)x0x1≠0 ⟹ s=x0x1=1x1/x0=1t[x_0:x_1]\longmapsto\begin{cases} t=\dfrac{x_1}{x_0} & (x_0\neq0)\\[2ex] s=\dfrac{x_0}{x_1} & (x_1\neq0)\end{cases}\qquad x_0x_1\neq0\ \Longrightarrow\ s=\frac{x_0}{x_1}=\frac{1}{x_1/x_0}=\frac1t

比をとるので、定数倍しても tt と ss は変わりません。例えば (2,6)=2⋅(1,3)(2,6)=2\cdot(1,3) なので、

[2:6]=[1:3],t=62=31=3,s=26=13=1t[2:6]=[1:3],\qquad t=\frac{6}{2}=\frac{3}{1}=3,\qquad s=\frac{2}{6}=\frac13=\frac1t

です。同じ点 [1:3][1:3] を k=F7k=\mathbb{F}_7 で考えると s=3−1=5s=3^{-1}=5 で、確かに st=15≡1(mod7)st=15\equiv1\pmod 7 です。

[x0:x1][x_0:x_1] は、k2k^2 の原点を通る直線((x0,x1)(x_0,x_1) の定数倍の全体)と同じものです。P1\mathbb{P}^1 の閉点は「原点を通る直線」だと考えられます。

t=0t=0
t=0.5t=0.5
s=2s=2
t=2t=2
s=0.5s=0.5
t=−1t=-1
s=−1s=-1
s=0s=0
x0=1x_0=1:tt を読む
x1=1x_1=1:ss を読む
x0x_0
x1x_1
図1具体例k=Rk=\mathbb{R} として、原点を通る直線を描いています。各直線と縦の線 x0=1x_0=1 との交点の高さが t=x1/x0t=x_1/x_0、横の線 x1=1x_1=1 との交点の横の位置が s=x0/x1s=x_0/x_1 です。両方の線と交わる直線では s=1/ts=1/t です。縦の直線(オレンジ)は x0=1x_0=1 と平行なので tt の値がなく、これが無限遠点 ∞\infty(s=0s=0)です。横の直線(緑)は ss の値がなく、点 t=0t=0 に当たります。

k=Ck=\mathbb{C} のときは、P1\mathbb{P}^1 の閉点を球面の点として描けます。複素平面(tt の地図)に無限遠点を1つ足すと、平面の端がすべて1点に集まって閉じ、球面になります。これをリーマン球面と呼びます。

ドラッグで回せます

球面の点 pp と北極 NN を結ぶ直線が、赤道面と交わる点を tt とします(tt は赤道面を複素平面とみた複素数)。北極以外の点は、ちょうど1つの tt に対応します。「真上」から見ると、赤道面の座標がそのまま tt です。

今度は南極 SS から同じ点 pp を射影します。交点の座標を下から読んだ値(「真下」から見た座標)を ss とすると、どの点でも st=1st=1 が成り立ちます。南極以外の点は、ちょうど1つの ss に対応します。

南極は t=0t=0、北極は s=0s=0 です。北極には tt の値がなく、tt の地図から見ると「無限遠点」です。

両極以外の点は、tt と ss の両方の地図に載り、s=1/ts=1/t で読み替えられます。これが P1\mathbb{P}^1 を作るときの貼り合わせ s↦1/ts\mapsto1/t です。2枚の平面(tt の地図と ss の地図)を貼り合わせると、球面になります。

図2具体例P1\mathbb{P}^1 の複素数の点をリーマン球面として描いた図です。北極 NN からの射影で tt を、南極 SS からの射影で ss を読みます。球面の点 (x,y,z)(x,y,z) では t=(x+iy)/(1−z)t=(x+iy)/(1-z)、s=(x−iy)/(1+z)s=(x-iy)/(1+z) で、st=1st=1 です(図を作るプログラムで、球面上の点について検算しています)。球面は曲面なので、立体で描いています。「真上」から見ると赤道面の座標が tt、「真下」から見ると ss になり、回すと2枚の地図が入れ替わります。
もう少し詳しくなぜ南極からの射影は下から読むのか

南極から点 p=(x,y,z)p=(x,y,z) を射影した交点を、赤道面の普通の座標で読むと w=(x+iy)/(1+z)w=(x+iy)/(1+z) で、w=1/tˉw=1/\bar t になります(tˉ\bar t は tt の複素共役)。

下から見ると平面が裏返るので、座標は複素共役 wˉ=1/t\bar w=1/t に変わります。これを ss とすると s=1/ts=1/t で、貼り合わせの式とぴったり合います。

複素共役が出てくるのは、北極側と南極側で平面を見る向きが逆だからです。

例12 P1\mathbb{P}^1 の複素数の点

k=Ck=\mathbb{C} とする。点 t∈Ct\in\mathbb{C} に対応する球面の点は、北極からの射影を逆にたどって

t=u+iv ⟼ (x,y,z)=(2u∣t∣2+1, 2v∣t∣2+1, ∣t∣2−1∣t∣2+1)t=u+iv\ \longmapsto\ (x,y,z)=\Bigl(\frac{2u}{|t|^2+1},\ \frac{2v}{|t|^2+1},\ \frac{|t|^2-1}{|t|^2+1}\Bigr)

で求まる。いくつかの点で、斉次座標、2つの座標 t,st,s、球面の点を並べると次のようになる(「なし」はその座標が使えないことを表す)。

点斉次座標ttss球面の点
00[1:0][1:0]00なし(0,0,−1)=S(0,0,-1)=S
11[1:1][1:1]1111(1,0,0)(1,0,0)
−1-1[1:−1][1:-1]−1-1−1-1(−1,0,0)(-1,0,0)
ii[1:i][1:i]ii−i-i(0,1,0)(0,1,0)
33[2:6]=[1:3][2:6]=[1:3]331/31/3(3/5,0,4/5)(3/5,0,4/5)
1+i1+i[1:1+i][1:1+i]1+i1+i(1−i)/2(1-i)/2(2/3,2/3,1/3)(2/3,2/3,1/3)
∞\infty[0:1][0:1]なし00(0,0,1)=N(0,0,1)=N

両方の座標がある行では st=1st=1 である(例えば i⋅(−i)=1i\cdot(-i)=1、(1+i)(1−i)/2=1(1+i)(1-i)/2=1)。

図2の式でも確かめられます。点 ii に当たる (0,1,0)(0,1,0) では t=(0+i)/(1−0)=it=(0+i)/(1-0)=i、s=(0−i)/(1+0)=−is=(0-i)/(1+0)=-i です。

表の 00 と ∞\infty は南極と北極で、tt の地図では北極だけが、ss の地図では南極だけが描けません。絶対値1の tt(1,−1,i1,-1,i)は赤道に乗り、そこでは s=1/t=tˉs=1/t=\bar t です。

命題11は代数閉体を仮定していました。代数閉体でない体では、X1X_1 の閉点に2次以上の既約多項式の点が加わります。

例13 代数閉体でない体の上の P1\mathbb{P}^1

kk を体とする。X1=Spec⁡k[t]X_1=\operatorname{Spec}k[t] の閉点は、最高次の係数が1の既約多項式 h(t)h(t) が生成する (h)(h) である。h≠th\neq t なら、d=deg⁡hd=\deg h として

h∗(s)=sd h(1/s)h^*(s)=s^d\,h(1/s)

とおくと、点 (h)(h) は X2X_2 の点 (h∗)(h^*) と同じ点である。P1\mathbb{P}^1 の点は、X1X_1 の点と無限遠点 ∞=(s)\infty=(s) からなる。

(1) k=Rk=\mathbb{R}。(t2+1)(t^2+1) は R\mathbb{R} 上の1点で、ss の側では (s2+1)(s^2+1) になる。(t2−2t+2)(t^2-2t+2) は (2s2−2s+1)(2s^2-2s+1) になる。イデアルは定数倍で変わらないので、(s2−s+12)(s^2-s+\tfrac12) と書いても同じ点である。

s2((1/s)2+1)=1+s2,s2((1/s)2−2/s+2)=1−2s+2s2s^2\bigl((1/s)^2+1\bigr)=1+s^2,\qquad s^2\bigl((1/s)^2-2/s+2\bigr)=1-2s+2s^2

複素数で見ると、t2−2t+2=(t−1−i)(t−1+i)t^2-2t+2=(t-1-i)(t-1+i) なので、この点は t=1±it=1\pm i の2点をまとめたものである。ss の側の根 (1∓i)/2(1\mp i)/2 は 1/(1±i)1/(1\pm i) に等しい。

(2) k=Fpk=\mathbb{F}_p。1次式の点 t=at=a(a∈Fpa\in\mathbb{F}_p)が pp 個と ∞\infty で、合わせて p+1p+1 個の点が斉次座標 [1:a][1:a]、[0:1][0:1] で書ける。斉次座標を直接数えても同じ数になる。

#(Fp2∖{0})#Fp×=p2−1p−1=p+1\frac{\#(\mathbb{F}_p^2\setminus\{0\})}{\#\mathbb{F}_p^\times}=\frac{p^2-1}{p-1}=p+1

p=2,3,5,7p=2,3,5,7 なら 3,4,6,83,4,6,8 個である。例えば F2\mathbb{F}_2 では [1:0],[1:1],[0:1][1:0],[1:1],[0:1] の3点で、t=0,1,∞t=0,1,\infty に当たる。

ほかに2次の既約多項式の点が (p2−p)/2(p^2-p)/2 個ある。例えば F3\mathbb{F}_3 では t2+1, t2+t+2, t2+2t+2t^2+1,\ t^2+t+2,\ t^2+2t+2 の3つで、ss の側ではそれぞれ s2+1, s2+2s+2, s2+s+2s^2+1,\ s^2+2s+2,\ s^2+s+2 になる(係数を F3\mathbb{F}_3 で計算し、最高次の係数を1にそろえた)。

証明
  1. hh は既約で h≠th\neq t なので h(0)≠0h(0)\neq0。よって h∗h^* も次数 dd で、h∗(0)h^*(0) は hh の最高次の係数 11 である。
  2. α(h∗(s))=t−dh(t)\alpha(h^*(s))=t^{-d}h(t) で、t−dt^{-d} は k[t,1/t]k[t,1/t] の単元である。よって h∗h^* は φ\varphi の点の対応で (h)k[t,1/t](h)k[t,1/t] の逆像に入る。
  3. h∗h^* は既約である。h∗=g1g2h^*=g_1g_2 と分解すると、同じ操作 g↦sdeg⁡gg(1/s)g\mapsto s^{\deg g}g(1/s) で hh も分解するからである。

    h∗(0)≠0h^*(0)\neq0 なので g1(0)≠0g_1(0)\neq0、g2(0)≠0g_2(0)\neq0 で、g1∗,g2∗g_1^*,g_2^* の次数は g1,g2g_1,g_2 と同じ。tdh∗(1/t)=h(t)t^dh^*(1/t)=h(t) から h=g1∗g2∗h=g_1^*g_2^* となり、hh の既約性に反する。

  4. 逆像は h∗h^* を含む0でない素イデアルなので、(h∗)k[s,1/s](h^*)k[s,1/s] に等しい。X2X_2 の点としては (h∗)(h^*) である。

    k[s,1/s]k[s,1/s] の0でない素イデアルは、ss 以外の既約多項式 qq で (q)k[s,1/s](q)k[s,1/s] と書ける(命題6の対応)。これが h∗h^* を含むなら qq は h∗h^* を割り切り、h∗h^* が既約なので qq は h∗h^* の定数倍である。

  5. X1X_1 の外の点は無限遠点 (s)(s) だけなので、2次の既約多項式の点はすべて X1X_1 の点 (h)(h) で、Fp\mathbb{F}_p 上の最高次の係数が1の2次既約多項式の個数 (p2−p)/2(p^2-p)/2 だけある。

    最高次の係数が1の2次式は p2p^2 個。そのうち可約なのは (t−a)(t−b)(t-a)(t-b) の形で、a≠ba\neq b が p(p−1)/2p(p-1)/2 個、a=ba=b が pp 個。よって既約なものは p2−p(p−1)/2−p=(p2−p)/2p^2-p(p-1)/2-p=(p^2-p)/2 個(p=2,3,5,7p=2,3,5,7 で 1,3,10,211,3,10,21 個。計算機で数えて確かめた)。

実数の点だけを描くと、(t2+1)(t^2+1) のような点は見えません。図1の直線の図に現れるのは、斉次座標で書ける点(1次式の点と ∞\infty)だけです。

射影直線の上の関数は定数だけ

P1\mathbb{P}^1 全体の上の関数を求めます。

定理14

kk を体とする。O(P1)=k\mathcal{O}(\mathbb{P}^1)=k(定数だけ)である。とくに P1\mathbb{P}^1 はアフィンスキームではない。

証明
  1. 貼り合わせの定義と第3回の系16から、O(P1)\mathcal{O}(\mathbb{P}^1) は、組 (f,g)∈k[t]×k[s](f,g)\in k[t]\times k[s] で、k[t,1/t]k[t,1/t] の中で g(1/t)=f(t)g(1/t)=f(t) となるものの全体。

    O(X1)=k[t]\mathcal{O}(X_1)=k[t]、O(X2)=k[s]\mathcal{O}(X_2)=k[s](第3回の系16(2))。重なりへの制限は k[t]⊆k[t,1/t]k[t]\subseteq k[t,1/t]、k[s]⊆k[s,1/s]k[s]\subseteq k[s,1/s] の包含で、φ#\varphi^\# は s↦1/ts\mapsto1/t なので、条件は g(1/t)=f(t)g(1/t)=f(t) になる。

  2. k[t,1/t]k[t,1/t] は tnt^n(n∈Zn\in\mathbb{Z})を基底とするベクトル空間である。f(t)f(t) は n≥0n\geq0 の tnt^n だけ、g(1/t)g(1/t) は n≤0n\leq0 の tnt^n だけで書けるので、等しければ n=0n=0 の項しか残らず、f=g=c∈kf=g=c\in k。
  3. アフィンでないことを示す。P1≅Spec⁡A\mathbb{P}^1\cong\operatorname{Spec}A なら、A≅O(Spec⁡A)≅O(P1)=kA\cong\mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)\cong\mathcal{O}(\mathbb{P}^1)=k なので、P1\mathbb{P}^1 は Spec⁡k\operatorname{Spec}k(1点)と同相になる。しかし P1\mathbb{P}^1 には異なる2点 (t)∈X1(t)\in X_1 と (s)∈X2∖U2(s)\in X_2\setminus U_2 がある。

    同型は環の同型 O(Spec⁡A)→O(P1)\mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)\to\mathcal{O}(\mathbb{P}^1) を含み、第3回の定理14(3) より O(Spec⁡A)≅A\mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)\cong A。

証明の1つめのステップを図式で書くと、定義8の四角形で V=P1V=\mathbb{P}^1 としたものになります。

O(P1)→k[s]↓↓s↦1/tk[t]→⊆k[t,1/t]\begin{CD} \mathcal{O}(\mathbb{P}^1) @>>> k[s] \\ @VVV @VV{s\mapsto1/t}V \\ k[t] @>{\subseteq}>> k[t,1/t] \end{CD}

右と下の矢印はどちらも単射なので、O(P1)\mathcal{O}(\mathbb{P}^1) は k[t,1/t]k[t,1/t] の中の2つの部分環の共通部分です。2つめのステップは、それを係数で比べて求めています。

O(P1)=k[t]∩k[1/t],k[t]={∑n≥0cntn},k[1/t]={∑n≤0cntn},k[t]∩k[1/t]=k\mathcal{O}(\mathbb{P}^1)=k[t]\cap k[1/t],\qquad k[t]=\Bigl\{\sum_{n\geq0}c_nt^n\Bigr\},\quad k[1/t]=\Bigl\{\sum_{n\leq0}c_nt^n\Bigr\},\quad k[t]\cap k[1/t]=k

例えば f=1+t2f=1+t^2 を ss の側から見ると 1+s−21+s^{-2} で、k[s]k[s] に入りません。逆に g=s2+3sg=s^2+3s は tt の側では t−2+3t−1t^{-2}+3t^{-1} で、k[t]k[t] に入りません。

t−4t^{-4}
t−3t^{-3}
t−2t^{-2}
t−1t^{-1}
11
tt
t2t^{2}
t3t^{3}
t4t^{4}
……
k[t]k[t]:tt の 00 以上のべき
k[1/t]k[1/t]:tt の 00 以下のべき
k[t,1/t]k[t,1/t] の基底 tnt^n(n∈Zn\in\mathbb{Z})
図3概念図証明の2つめのステップ。k[t,1/t]k[t,1/t] の基底 tnt^n を並べると、tt の側の関数 k[t]k[t](青)は右半分、ss の側の関数 k[1/t]k[1/t](緑)は左半分を使います。両方で書ける関数は、真ん中の定数 11 の倍だけです。

直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] の上には t,t2,…t,t^2,\dots と関数がたくさんありました。無限遠点を1つ足しただけで、関数は定数しか残りません。tt は無限遠点で「無限大」になってしまい、無限遠点まで延ばせないからです。

P1\mathbb{P}^1 は、関数の環からは復元できない空間です。この点で、Spec⁡A\operatorname{Spec}A(全体の関数から AA が戻る)とはまったく違います。

全体では定数しか残りませんが、1点を除くと定数でない関数が現れます。開集合ごとに関数の環を並べてみます。

例15 P1\mathbb{P}^1 の開集合の上の関数

kk を体とする。X1,X2X_1,X_2 は P1\mathbb{P}^1 の開集合で、O\mathcal{O} を制限するともとの構造層に戻るので、次のようになる。

P1∖{∞}=X1,O=k[t],t, t2+1, …P1∖{0}=X2,O=k[s]=k[1/t],1/t, 1+3/t2, …P1∖{0,∞}=U1,O=k[t,1/t],t+1/t, …P1,O=k,c  (c∈k)\begin{array}{lll} \mathbb{P}^1\setminus\{\infty\}=X_1, & \mathcal{O}=k[t], & t,\ t^2+1,\ \dots \\ \mathbb{P}^1\setminus\{0\}=X_2, & \mathcal{O}=k[s]=k[1/t], & 1/t,\ 1+3/t^2,\ \dots \\ \mathbb{P}^1\setminus\{0,\infty\}=U_1, & \mathcal{O}=k[t,1/t], & t+1/t,\ \dots \\ \mathbb{P}^1, & \mathcal{O}=k, & c\ \ (c\in k) \end{array}

関数 tt は X1X_1 の上の関数だが、ss の側で書くと t=1/s∉k[s]t=1/s\notin k[s] なので、∞\infty まで延びない。一方で

1t−1=11/s−1=s1−s\frac{1}{t-1}=\frac{1}{1/s-1}=\frac{s}{1-s}

は s=0s=0 でも分母が0にならず、∞\infty での値は 00 である。この関数は、点 11 を除いた P1∖{1}\mathbb{P}^1\setminus\{1\} の上の関数になる。

証明
  1. X1X_1 を除いた残りは ∞\infty だけで、X2X_2 を除いた残りは X1X_1 の原点 (t)(t) だけ。U1U_1 は X1X_1 から原点を除いたもので、関数の環は 命題6より k[t]t=k[t,1/t]k[t]_t=k[t,1/t]。
  2. 1/(t−1)1/(t-1) について。V=P1∖{1}V=\mathbb{P}^1\setminus\{1\} とすると V∩X1=D(t−1)V\cap X_1=D(t-1)、V∩X2=D(s−1)V\cap X_2=D(s-1) で、組 (1/(t−1), s/(1−s))\bigl(1/(t-1),\,s/(1-s)\bigr) は 定義8の条件をみたす。

    1/(t−1)∈k[t]t−1=O(D(t−1))1/(t-1)\in k[t]_{t-1}=\mathcal{O}(D(t-1))、s/(1−s)∈k[s]s−1=O(D(s−1))s/(1-s)\in k[s]_{s-1}=\mathcal{O}(D(s-1))(第3回の系16(1))。α(s/(1−s))=(1/t)/(1−1/t)=1/(t−1)\alpha(s/(1-s))=(1/t)/(1-1/t)=1/(t-1) なので、重なりの上で一致する。

    数で確かめると、点 t=3t=3(s=1/3s=1/3)で、1/(3−1)=1/21/(3-1)=1/2、(1/3)/(1−1/3)=1/2(1/3)/(1-1/3)=1/2 と同じ値になる。

tt と 1/(t−1)1/(t-1) の違いは、分子と分母の次数にあります。tt は分子のほうが次数が高く、1/(t−1)1/(t-1) は分母のほうが高くなっています。次数を比べれば無限遠点で正則かどうかが分かることを、次の例で確かめます。

例16 無限遠点で正則な有理関数

kk を体とし、s=1/ts=1/t で k(s)=k(t)k(s)=k(t) とみなす。無限遠点 ∞=(s)\infty=(s) での茎は k[s](s)k[s]_{(s)} である。0でない多項式 p,q∈k[t]p,q\in k[t] について、

p(t)q(t)∈k[s](s)  ⟺  deg⁡p≤deg⁡q\frac{p(t)}{q(t)}\in k[s]_{(s)}\iff\deg p\leq\deg q

が成り立つ。このとき ∞\infty での値(s=0s=0 を代入した値)は、deg⁡p<deg⁡q\deg p<\deg q なら 00、deg⁡p=deg⁡q\deg p=\deg q なら最高次の係数の比である。例えば次のようになる(矢印の先は ∞\infty での値)。

t∉k[s](s),1t−1↦0,tt−1↦1,2t2+1t2+3=2+s21+3s2↦2t\notin k[s]_{(s)},\qquad \frac{1}{t-1}\mapsto0,\qquad \frac{t}{t-1}\mapsto1,\qquad \frac{2t^2+1}{t^2+3}=\frac{2+s^2}{1+3s^2}\mapsto2
証明
  1. ∞\infty は X2X_2 の点 (s)(s) なので、茎は X2X_2 の茎 k[s](s)k[s]_{(s)} である(第3回の系16(3))。
  2. d=deg⁡pd=\deg p、e=deg⁡qe=\deg q とし、p∗(s)=sdp(1/s)p^*(s)=s^dp(1/s)、q∗(s)=seq(1/s)q^*(s)=s^eq(1/s) とおく。p∗(0)p^*(0)、q∗(0)q^*(0) は最高次の係数で0でなく、次のように書ける。
    p(t)q(t)=p(1/s)q(1/s)=s−dp∗(s)s−eq∗(s)=se−d p∗(s)q∗(s)\frac{p(t)}{q(t)}=\frac{p(1/s)}{q(1/s)}=\frac{s^{-d}p^*(s)}{s^{-e}q^*(s)}=s^{e-d}\,\frac{p^*(s)}{q^*(s)}
  3. p∗/q∗p^*/q^* は k[s](s)k[s]_{(s)} の単元なので、p/q∈k[s](s)p/q\in k[s]_{(s)} と e−d≥0e-d\geq0 は同値である。

    e−d≥0e-d\geq0 なら se−d∈k[s]s^{e-d}\in k[s] なので入る。e−d<0e-d<0 のときは、s−1∉k[s](s)s^{-1}\notin k[s]_{(s)} から入らない。実際、1/s=a/b1/s=a/b(b(0)≠0b(0)\neq0)なら b=asb=as で b(0)=0b(0)=0 となり矛盾する。

  4. 値は s=0s=0 を代入して求まる。e>de>d なら se−ds^{e-d} の因子で 00、e=de=d なら p∗(0)/q∗(0)p^*(0)/q^*(0) で、最高次の係数の比である。

この例から、定理14をもう一度確かめられます。P1\mathbb{P}^1 全体の上の関数は X1X_1 の上の関数なので多項式 p(t)p(t) で、∞\infty でも正則なので、上の例で q=1q=1 として deg⁡p≤0\deg p\leq0、つまり定数です。

もう少し詳しく複素関数論のリウヴィルの定理との関係

複素数で考えると、リーマン球面はコンパクトです。コンパクトな複素多様体の全体で正則な関数は定数だけで、これは「有界な整関数は定数」というリウヴィルの定理と同じ現象です。

O(P1)=k\mathcal{O}(\mathbb{P}^1)=k は、その代数版だと言えます。代数の証明では、コンパクト性の代わりに「tt の正のべきと負のべきが両立しない」ことを使いました。

原点が2つある直線

同じ2本の直線でも、貼り合わせ方を変えると別の空間ができます。

例17 原点が2つある直線 [1, 例2.3.6, p.104]

kk を体とする。X1=Spec⁡k[t]X_1=\operatorname{Spec}k[t]、X2=Spec⁡k[u]X_2=\operatorname{Spec}k[u] を、開集合 D(t)D(t) と D(u)D(u) で、環の同型 k[u,1/u]→k[t,1/t]k[u,1/u]\to k[t,1/t]、u↦tu\mapsto t が引き起こす同型で貼り合わせる。できたスキーム XX では、2つの原点 O1=(t)∈X1O_1=(t)\in X_1 と O2=(u)∈X2O_2=(u)\in X_2 は別の点であり、O(X)≅k[t]\mathcal{O}(X)\cong k[t] である。

証明
  1. O1∉D(t)O_1\notin D(t)、O2∉D(u)O_2\notin D(u) なので、どちらも同一視されず、別の点として残る。
  2. O(X)\mathcal{O}(X) は、組 (f,g)∈k[t]×k[u](f,g)\in k[t]\times k[u] で k[t,1/t]k[t,1/t] の中で g(t)=f(t)g(t)=f(t) となるもの。k[t]→k[t,1/t]k[t]\to k[t,1/t] は単射なので g=fg=f で、O(X)≅k[t]\mathcal{O}(X)\cong k[t]。

定理14の図式と並べると、違いは右の縦の矢印だけです。

O(P1)→k[s]↓↓s↦1/tk[t]→⊆k[t,1/t]O(X)→k[u]↓↓u↦tk[t]→⊆k[t,1/t]\begin{CD} \mathcal{O}(\mathbb{P}^1) @>>> k[s] \\ @VVV @VV{s\mapsto1/t}V \\ k[t] @>{\subseteq}>> k[t,1/t] \end{CD} \qquad\qquad \begin{CD} \mathcal{O}(X) @>>> k[u] \\ @VVV @VV{u\mapsto t}V \\ k[t] @>{\subseteq}>> k[t,1/t] \end{CD}

k[t,1/t]k[t,1/t] の中の共通部分で書くと、次のようになります。

O(P1)=k[t]∩k[1/t]=k,O(X)=k[t]∩k[t]=k[t]\mathcal{O}(\mathbb{P}^1)=k[t]\cap k[1/t]=k,\qquad \mathcal{O}(X)=k[t]\cap k[t]=k[t]

s=1/ts=1/t で貼ると、図3の右半分と左半分の共通部分なので、定数だけが残ります。u=tu=t で貼ると、同じ部分環どうしなので何も失われません。

X1X_1
X2X_2
原点 (t)(t)
原点 (u)(u)
原点以外を t=ut=u で同一視
XX
O1O_1
O2O_2
図4概念図2本の直線 X1X_1(青)と X2X_2(緑)を、原点以外の点で同一視しています。下の XX が貼り合わせた空間で、原点だけが O1O_1 と O2O_2 の2つに分かれています。図は実数の点だけを描いた模式図です。

O(X)≅k[t]\mathcal{O}(X)\cong k[t] は直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] の関数の環と同じです。しかし XX はアフィンスキームではありません。関数の環が同じでも、空間が違います。

命題18

原点が2つある直線 XX はアフィンスキームではない。

証明
  1. 局所環付き空間 YY の点 PP について、m(P)m(P) を「PP での芽が茎の極大イデアルに入る O(Y)\mathcal{O}(Y) の元」の集合とする。同型はこの mm を保つ。

    同型 Y≅Y′Y\cong Y' は、全体の関数の環の同型と、各点の茎の同型を与え、両者は芽をとる操作と両立する。茎の同型は環の同型なので、ただ1つの極大イデアルを、ただ1つの極大イデアルに移す。

  2. Y=Spec⁡AY=\operatorname{Spec}A では m(P)=Pm(P)=P。よって異なる点は異なる m(P)m(P) をもつ。

    茎 APA_P の極大イデアルは PAPPA_P である。a∈Pa\in P なら a/1∈PAPa/1\in PA_P。

    逆に a/1=b/sa/1=b/s(b∈Pb\in P、s∉Ps\notin P)なら、ある u∉Pu\notin P で u(as−b)=0u(as-b)=0 となり、uas=ub∈Puas=ub\in P。u,s∉Pu,s\notin P で PP は素イデアルなので a∈Pa\in P。

  3. XX では m(O1)=m(O2)m(O_1)=m(O_2)。どちらも O(X)=k[t]\mathcal{O}(X)=k[t] のうち原点で値が0になる元の全体、つまり (t)(t) である。よって XX は Spec と同型になりえない。

    O1O_1 の茎は X1X_1 の茎 k[t](t)k[t]_{(t)} で、全体の関数 (f,f)(f,f) の芽は f/1f/1。これが極大イデアルに入るのは f∈(t)f\in(t) のとき(前のステップ)。O2O_2 でも同じ計算で f∈(u)f\in(u)、つまり f(0)=0f(0)=0。

Spec の空間では、異なる2つの閉点は、片方で0になり他方で0にならない関数で区別できます。原点が2つある直線では、どの関数も2つの原点で同じ値をとるので、関数で区別できません。

Spec⁡k[t]: m((t))=(t)≠(t−1)=m((t−1)),X: m(O1)=(t)=m(O2)\operatorname{Spec}k[t]:\ m\bigl((t)\bigr)=(t)\neq(t-1)=m\bigl((t-1)\bigr),\qquad X:\ m(O_1)=(t)=m(O_2)

例えば関数 tt は、点 11 で値 11、原点で値 00 をとるので、直線の2点 00 と 11 を区別します。XX の上の関数 tt は、O1O_1 でも O2O_2 でも値 00 で、2つの原点を区別できません。

専門的な話分離的なスキーム

位相空間で「2つの点が交わらない近傍で分けられる」性質をハウスドルフ空間と言います。原点が2つある直線は、普通の位相で考えれば典型的なハウスドルフでない空間です。

しかしザリスキー位相では、整域の Spec の空でない開集合はどれも生成点を含んで交わるので、直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t] 自身もハウスドルフではありません。ハウスドルフかどうかでは、直線と原点が2つある直線を区別できないのです。

そこでスキームでは、ハウスドルフの代わりに分離的という条件を使います。ハーツホーンは、原点が2つある直線を分離的でないスキームの例として挙げ、定義は §II.4 で与えています[1, p.104]。

射影直線は分離的で、さらに「コンパクト」に当たる性質(固有)ももっています。

まとめ:空間と全体の関数

空間作り方全体の関数アフィンか
直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec}k[t]環 k[t]k[t] の Speck[t]k[t]アフィン
原点を除いた直線 D(t)D(t)直線の開集合k[t,1/t]k[t,1/t]アフィン(Spec⁡k[t,1/t]\operatorname{Spec}k[t,1/t])
射影直線 P1\mathbb{P}^12本の直線を s=1/ts=1/t で貼るkkアフィンでない
原点が2つある直線2本の直線を u=tu=t で貼るk[t]k[t]アフィンでない

同じ2本の直線から、貼り合わせ方の違いで、まったく違う空間ができました。s=1/ts=1/t で貼ると無限遠点が1つ増えて閉じた空間になり、u=tu=t で貼ると原点が分かれます。どちらも、1つの環の Spec では作れない空間です。

次回:射影平面と無限遠で交わる平行線

同じ考え方で、平面に無限遠の点を足した射影平面 P2\mathbb{P}^2 が作れます。今度は3枚の平面を貼り合わせ、点は斉次座標 [x0:x1:x2][x_0:x_1:x_2] で表されます。射影平面では、平行な2直線も無限遠で必ず1点で交わります。

次回は、射影空間を次数付き環から作る方法(Proj)と合わせて、曲線を無限遠まで含めて見ます。

参考文献

  1. R. ハーツホーン(高橋宣能・松下大介 訳), 『代数幾何学 1』, 丸善出版, 2013.
  2. M. F. アティヤ, I. G. マクドナルド(新妻弘 訳), 『可換代数入門』, 共立出版, 2006.